手袋をもらう前に……
またまた更新遅れました。アルが安易に「手袋をプレゼントする」と言い出したので、裏工作に四苦八苦です(作者が)。
そして1話にまとめ切れなかった……ごめんなさい。
マーカス殿下たちが部屋を出て行ったら、アルはウィリアムさんとテッドだけを室内に残して、他は外へ出るよう言い付けた。
年配の侍女が「ですが……」と何か言いかけたけれど、鋭い視線で退出を促す。いつも人の良い笑顔のアルにしては珍しい態度だろう。
完全に人払いされ、さらに防音の魔石が置かれたのを確認してから、私は先に気になったことを聞く。
「公式にアルが商会へ来るのは危なくない?」
「……夏までに、解決したいんだ。ただ、火龍家ではなく僕が狙いでなければ無意味だけど」
苦い顔でアルが答える。
夏までに……って、どうしたんだろう?
手の印の件でかなり怒らせちゃったから、印を消すまでは会えないだろうと思っていたのに商会へこっそり来てくれたし、王城へ招いてくれたり、マーカス殿下まで巻き込んだり。考えてみれば、アルらしくない動きだ。何かあったんだ。
でも……そのことを聞く前に、うちに公式で来るというなら。
「カールトン商会に来る件は分かったけど、どうせならディ……水龍家の商会にも行って欲しいな」
「何故?」
「王族は普通、店で買い物しないんでしょう?火龍家だけ贔屓にしてるように見えるのは良くないかなぁと思うの。それでなくても新商品をあれこれ出してて、うちは目立ってるみたいだし」
このところ商会によく通っているので、市中の噂は多少、耳に入る。それを聞くともなしに聞いているうちに、ふと、出る杭は打たれる───前世のことわざが思い出されて、気を付けた方がいいような気がしたのだ。
そもそも姉さまが狙われたのは、火龍家がかなり目立つからかも知れない。うちの新商品は誰が考えたものか明らかにはしていないけれど……わりと姉さまが前面に立っているので、姉さまだと考えている人も多い。嫉妬や妬みは、バカにできない。
アルがハッと目を見張って、それから額を押さえた。
「……アリッサの言う通りだ」
「じゃあ、大変だと思うけど、水龍家も」
「いや、四龍すべての商会を回るよ」
ありゃ。面倒なお願いになっちゃったかな?
「アリッサに言われるまでもなく、僕が配慮しなければいけなかった。ありがとう」
「う、ううん」
アルはあくまでも犯人炙り出しが目的だ。私が変なことを言ったせいで、余分な仕事を増やしてしまった気がする。申し訳ない。
「ただ……ヘイスティングス商会は、女性の服飾が多いから。何を買えばいいなか悩むなぁ……」
小さな溜め息とともに眉がへにょっと下がった。……ふふ、アルってそういう顔もするんだ。可愛いなぁ。
「そんなの、誰かへあげるものを買ったらいいでしょ」
「アリッサ、何が欲しい?」
「ダメ!私は止めて」
私は慌てて手を振った。
「手袋ももらうのに、ディの店でアルが私の物を買ったらすごいウワサになっちゃう!」
公式で店に行って、私の物を買うなんて……そんなの、誰がどう見ても……。
「アルの婚約者だって……思われるじゃん……」
最後の方は声が小さくなる。どうしよう、アルの顔が見られない。
ドキドキしながら返事を待ったら、アルは深い溜め息をついた。
「そうだね。誤解が広がっちゃうか。どうしようかなぁ……」
あ……うん。あっさり頷いたね。誤解、だよね。
「えーと、王妃さまにプレゼントは?」
「ああ!それはいいね。うん、そうするよ」
その後、どうして夏までに片付けなきゃいけないかを聞いたけれど、アルは誤魔化してきちんと答えてくれなかった。
教えてくれたのは、忙しくなるからとだけ。
もう!気になるよ……。
その後、少し話をしてから侍女を呼んだ。お茶のお代わりを用意を頼んだら、侍女たちが動き回るなか、アルとは無難な雑談を交わす。
……でもアルと無難な会話って、難しい。
ポロッとセオドア兄さまと一緒に山地の方へ行って魔物退治を見たといったら、アルの食い付きはすごかったけど。アルって魔物退治とかに興味あったんだ?なんだか意外。やっぱり男の子だなぁ。
そして、マーカス殿下たちが部屋に帰ってきた。
姉さまに特に変わりはない。こちらも何もなかった。まあ、急なお茶会だし、今までにない組み合わせだもんね。相手も警戒するよねー。
さて、ここからが本題。
ライアン兄さまが「ところで……」とポケットから小さな道具を取り出した。
「マーカス殿下やアルフレッド殿下は、風の魔法は使えますか?」
ライアン兄さま協力のもと、手袋作戦を開始します。
 




