作戦および下準備
私が王都で社交するという件について。
まあ、当然ながらお父さまは認めないだろう。そして、お祖父さまも反対するに違いない。いつもなら私には甘いけど、この件に関しては絶対にお父さま側だ。
たぶん、お母さまも反対派だと思う。
そうなると、この三人を相手にしなきゃいけなくて……とても私が上手に説得できるとは思えない。
なので私は味方を増やすことにした。
まず、セオドア兄さま。
そして、アナベル姉さま。
領で安穏と守られているのではなく、積極的に王都で動きたいと話をしたら、二人ともすぐに賛成してくれた。
「うん、アリッサから言い出してくれて良かった。いつまでも領の中に閉じ込める訳にはいかないと思っていたんだ」
「私もアリッサの考えに同意だわ!お父さま、私を学院へ戻らせない気なのよ?それ、いつまでよ?相手が誰か、狙いは何か、全然分からないのにただ引っ込んでてどうするの。アリッサ。一緒に戦うわよ」
やったぁ。心強い味方が出来た!
セオドア兄さまはしかし、もう一人、味方を増やそうと提案してきた。
「母上と父上、それにお祖父さまの三人を相手にするのは厳しい。強力な味方が必要だ」
「強力な……?」
「そう。お祖母さまだ」
───お祖母さま?!
お祖母さまは基本的に何事も口を挟まない方なので、そもそも動いてくれるんだろうか?優しいし、博識でいろんなことを教えてくれるし、大好きだけど。
「お祖母さまなら分かってくれるし、お祖母さまが味方してくれるなら、大丈夫だ」
兄さまは自信を持って言い切った。
ふむふむ、兄さまがそう言うなら、きっとそうなんだろう。そもそもセオドア兄さまはあんまり説得役は向いてないもんね。
お祖母さまは、私たちの話を最後まで静かに聞いたあと、ゆっくりと口を開いた。
「わたくしはね、マックスやコーデリアのすることに口出しはしないと決めていたの」
ああ~、これは協力してもらうのはムリかなぁ?
「だけど可愛い孫がわたくしを頼ってくれるとなると、話は別ね。……それにあなたたちの考えも、一理あることだし」
「では……」
「ええ。マックスやオーガストの説得に力を貸しても良いわ」
セオドア兄さまはパッと顔色を明るくした。それをお祖母さまは手で制する。
「ただし条件が一つあります」
「条件?」
なんだろう……。
「アナベルとアリッサは、専属護衛ときちんと話をして護衛計画書を作成し、提出しなさい。特にアリッサ。あなたの護衛を務める子は、あなたが学院へ入学するまでに護衛としての訓練を終える手筈になっているはずよ。今、動けるのかどうかの確認がまず必要でしょう」
ふおお……お、お祖母さま、なんて的確な指摘!
そ、その通りです、リックもテッドもまだ護衛見習い……。まずは二人にちゃんと話をしないと。
そんなこんなで、メアリー、リック、テッドと話をする(もちろん、お父さまたちにはバレないように)。
メアリーは「大丈夫ですよ!お嬢さまを襲ってくるやつ、バンバン倒します!」と心強い返事だった。……いや、バンバン倒すほど来られたら怖いけども。
リックは、学院入学までに身に付けなければいけない礼儀作法や貴族の常識、勉学の基礎部分などがまだ山積みで、とても護衛任務には就けないとのことだった。かなり悔しそうだ。
テッドの方は、師のガイに相談した。
ガイはあっけらかんとOKだ。
「あ、いいっスよ、オレも一緒に護衛につきますから。基本はもう問題ないんで、あとは実践で覚えていくしかないっすからね~。お嬢さまは瞬間移動するってウワサも聞きますし。早めにお嬢さまの動きのクセに慣れておきましょか」
ちょっと。瞬間移動なんかしないってば。
ウワサの出所は、どうせメアリーでしょ。
その横でラクがぶうっと頬を膨らせた。
「なんだよ。姫さんを守るなら、オレでいいじゃん。ほかのヤツなんかいらないよ」
「お前はダメ!」
「アニキはなんでもダメって言う!ケチ!」
「俺はお前の兄貴じゃねえよ。リックだ、リック!そろそろ覚えろ」
「アニキ」
「だぁぁっ、もう!」
ラクは組織から抜け出したときに大ケガをし、死線をさまよったらしい。どうもそのときに魔のモノと化したようだ。
赤い瞳の持ち主は、ちょっとしたきっかけで魔のモノ化しやすいのだとか。ただ、そのおかげでラクは命を長らえた。代わりに知能は退行してしまったようで……私の姫さん呼びもなかなか“お嬢さま”に変えられないのよねぇ……。




