攻撃こそ最大の防御なり?
「つまみ食いするなっつったろ!何回言えば覚えるんだ!」
急に廊下でリックの声がした。続いてゴチン!と痛そうな音がする。
あ。
「いってぇ!ボーリョクはダメだって姫さんが言ってた!」
「これは暴力じゃねぇ。教育的指導だ」
「はあ?!イミわかんねぇ!」
そのまま二人が廊下でぎゃあぎゃあ騒いでいたら、侍女長の「廊下で何をやっているのです!」という一喝が入った。
そして、何やらずるずる引きずられていく音がする。
あー……これは別室で侍女長から指導が入るなー。私のお茶が届くまで、もうしばらく掛かりそうだ。別に急いでないからいいんだけど。
……リックとラクは、驚くほど合わない。
毎日、こんな調子でケンカばかりだ。
私の髪を梳いていたメアリーが溜め息をついた。
「弟が口も手も悪くて、すみません~」
「ううん。……というか、リックって、結構気が短かったんだね」
「父が亡くなって……女と子供ばかりの家だから、理不尽な言いがかりをつけられたり、変に言いよってくるヤツがいたり、いろいろあったんですよ。だからリックは、自分が父の代わりにがんばらなきゃ!と思ったみたいで。気の強さだけでずっと大人たちとわたりあっていたんです。そのせいか、まあ、ちょっと乱暴なとこがねぇ……。お嬢さまの前では抑えてましたけど」
そうだったんだ。
「あと、テッドが言ってもすぐ忘れるもんだから、拳で覚えさせる悪いクセがついたというか」
なーるほど。
でもまあ、そのテッドは、おおらかで頼りがいのある感じに育ったからラクもそのうちそうなる……かなぁ???
ジョージーナさまから、冬の社交シーズンだけど王都には来られないのですか?ぜひ、お茶会をしたいのですが……という手紙をもらった。
アナベル姉さまが毒に倒れた件は、王家や四龍には知らされているけれど、一般には知られていない。急に体調を崩して、領で療養中ということになっている。だから、ジョージーナさまのお誘いは別におかしいことでもなんでもない。
……でも、姉さまの件だけじゃなく、その前から私ってほぼ社交してないのよねぇ。
セオドア兄さまが“領主の仕事を見せる、教える”とお祖父さまに宣言しているのを見て、私も自分の立場を真剣に考え直してみた。
やっぱり四龍家の一員として、もうちょっと貴族らしいことをしていかないとダメじゃないかしら。
だってねぇ?
このまま社交慣れせずに学園に通ったり、大人になったりしたら、私、すっごい恥ずかしい失敗をしそうな気がするのよ。
子供の今のうちに、場数をこなしておくべきじゃないかなぁ。
それと。
アナベル姉さまのカッコ良さに感銘を受けちゃった。
私やアナベル姉さまを狙った悪いヤツ。
そいつが捕まらないからって、隠れたままでいるより……こっちから、さっさと迎え撃つべきだと思うの。いつまで怯えて隠れていけなきゃならないの?
というワケで。
王都で派手に動いてみたら、状況打破ができるんじゃないかな~。
もちろん。
お父さまを泣かせちゃったことは忘れてないんだけどね。




