私の周りの、それぞれの優しさ
文章量、多くなってしまいました。なかなかまとめられなくて、辛かった……(結局、まとめられた気もしない)。
目の周りが青く腫れたテッドが部屋に入ってきた。
王城から領に帰ってきて翌日のことだ。
「テッド!その顔……!」
「兄貴に殴られた」
「ごめ……っ、私のせいだよね?!」
あわあわして、テッドに駆け寄る。
昨日、私はぐずぐずのまま寝てしまい、あのあとラクがどうなったかなどを知らない。
「大丈夫、大丈夫。これ、兄貴の嫉妬だから」
「嫉妬?!」
「オレが知ってて、兄貴は知らなかっただろ。兄貴は認めたがらないだろうけど。ホントはそれが悔しいんだと思うなー。だってさ、兄貴、必死にがんばってるけどマシュー様に敵わないし、剣技もオレの方が上だし」
ニヤッとテッドは悪い顔で笑う。
「ううう……リック、すっごくムリしてがんばってるのに……傷つけちゃった……」
「ハハ、お嬢が気にする必要はないよ。兄貴の方こそ、お嬢に怒鳴ったって?ごめんな。兄貴も反省してた。……でも、お嬢はやっぱすげーな。自分コロそうとした相手でも許せるとは」
テッドもラクの素性を知ったらしい。私は身を縮める。
「……ただの偽善だよ」
「なに言ってんだよ。らしくない。……オレはさ。親父が死んでも、お袋と姉貴がいて、がんばってくれたから、まあまあ普通に暮らせたけど……飢饉があったりお袋が病気になったりしたら、どうなってたか分からねえ。オレや兄貴もお嬢に救われたクチなんだよ。それは絶対に間違いない事実だ。だから、オレらはお嬢のすることを偽善だの何だの言わない。ラクを見捨てなかったお嬢は、オレの自慢の主だ。お嬢はもっと、胸を張れ。お嬢の偽善は必要な偽善だ」
「テッド……」
最初、下心ありありでテッドやリックに親切にしたのに?なんか……やっぱ肩身狭い……!
テッドと一緒に執務室へ。
中にはお祖父さま、お父さまがいた。
まず、お祖父さまに怒られた。お祖父さまに怒られたのは、もしかすると初めてかも知れない。ゲンコツを頭にゴツンと(手加減してコツンくらい)された。
で、そのあとギュッとされて泣かれてしまった……。
「アリッサは……儂にはなんでも話してくれると思っておったのに……!」
「ご、ごめんなさい……」
大好きなお祖父さままで悲しませるなんて。私、ほんと悪い子だなぁ。
お父さまは、大きな溜め息をついた。
「間違ったことをしている自覚はあったから、隠していたんだろう?……これからは、そういうことはしないように」
「はい」
お父さまもお祖父さまも目の下にクマがある。一晩中、二人でいろいろ話していたようだ。
本来、王族に対して刃を向けた者を、四龍家が見逃すことなどあってはならない。だけどもアルが、この件に関しては公にしないので、すべてお父さまの思うように采配して良いと言ってくれたらしい。
アル。
昨日は全然、ちゃんと話せないままだったのに……まだ……私のこと、見限らないでいてくれるんだ。
───そして、肝心のラクの今後について。
昨日は目覚めたら興奮して暴れるラクに、テッドがずっと付き添って宥めていたそうだ。今は落ち着いてビルの元にいるらしい。
「ひとまず、アリッサに対する絶対的な忠誠心……というのか、従属する意思は確認した。ということで領内に限り、自由に活動させることにする。行動を監視する道具は付けさせることになるが。それと、しばらくはリックの下で従者見習い扱いだ」
ラクの能力を考えると護衛なんだけど、カッとなったら見境がないので危険と判断されたらしい。たぶん、その方がいいだろう。
そして、ラクの素性については、お母さまたちには秘密にするとのこと。アナベル姉さまの件でまだ心痛が癒えてないのに、これ以上不安の種を蒔くワケにはいかないとの配慮だ。
ハイ、その通りです。本当に……ごめんなさい。
なお、ラクのことは非常に重要な案件なので、兄さまたちには知らされている。
だからだろう。夜、セオドア兄さまが部屋に来た。
「父上たちは言わないだろうから、俺が言うことにしたよ」
ソファーに並んで座って、兄さまが私の頭を撫でる。
「アリッサはもう十分、分かっていると思うし、今さら俺が今回の件をどうこう言う気はないんだ。ただね、父上とお祖父さまは、あの少年が次にまた問題のある行動を取ったら……即座に自身の首を切って王家に差し出すつもりでいる。そのことをアリッサは知っておいて欲しい」
「お父さまとお祖父さまが?!そんな……。だって、ラクのことは私の罪です。私一人が負うべきで……」
「まあ、事の次第によってはアリッサの首も必要になるかも知れないけれど……」
そっか。
まあ、当然だよね。
でも……ラクを助けようとして周りをいっぱい巻き込んで、結局、私だけじゃどうしようもなくて……これじゃ、助けたのか助けられたのか分からないや……。
「ねえ、兄さま。今さらだけど、私、間違えてた?」
本当に今さらなんだけど。
そして何度あのときに戻ったとしても、私は違う道を選べたとは思えないけれど。
「んー、そうだなぁ。まあ、これは俺個人の意見だけどさ。アリッサは、そのままでいいと思う」
「家族を巻き込んでも?」
兄さまは再び、私の頭を優しく撫でてくれた。
「そこはホント、難しいな。でも世の中、道を踏み外した者に手を差し伸べる者も必要なんじゃないかな。だからアリッサの弱い者を思いやる気持ちは、大事にして欲しい。誰もがそういう優しさというか、思いやりの気持ちを持ち合わせていたら……本当は世界はもっと平和なんだと思うよ」
「そう……でしょうか。私なんて、目の前のたった1人か2人しか手を差し伸べられないし……」
すべてを救えるワケがないのは分かってる。でも、たまたま目にした身近な人だけ助けるなんて、ただのエゴっぽい気もする。
兄さまは肩をすくめた。
「ていうか。俺や父上は、1万の国民を助けるために100人を犠牲にすることを躊躇わないし、反対にたった1人の王を守るためにたくさんの兵士の命を使うこともある。俺の人殺しは良くて、生きるために誰かを殺した者は悪だと―――断罪できる立場なのか?って、俺も悩んだりするんだよ。だけど、国を守る四龍家の者だからな。そこは飲み込むしかない」
ふうん……。兄さまもお父さまもお祖父さまも。私が知らなかっただけで、たくさん、重い物を背負っているのかなぁ。
「でも、私も四龍家の一員……」
「ふふ、四龍家だからこそ、一人はそういう慈悲の人間も必要なんだと思うな。どっちにしろ正解なんて、神さまじゃないから分からないよ。父上もお祖父さまも……アルフレッド殿下も、アリッサの行為を許した。それが今のところすべてだ。だから……そうだな、またこういうことがあったら、次は一緒に悩んでいこう」
……うん。ありがとう、セオドア兄さま。
私は本当に幸せ者だ。だからこれからも―――いっぱい悩んで、がんばってみる。
シリアスパート、何故にさらっと短く書けないのやら。とりあえず、次話は軽~い話で。
それと、本日昼くらいに、総合評価8000tp突破記念のSSを活動報告に上げます→「マーカスの独り言」




