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もしかして悪役令嬢 ~たぶん悪役令嬢なので、それっぽいフラグを折っておきます~  作者: もののめ明
アリッサ7才

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私、何か大きく間違えてしまったの……?

「テメェ、姫さんに何しやがる!!」

「ラク!止めて!!」

 もしかしたら、とは思った。

 印の形が何故か漢字の“楽”という文字に見えなくもなくて、一瞬、あれ?と思ったのだ。だけど、そんなはずない、そもそもラクが魔の者だなんて、って……。

 一瞬、ぶわっと吹き上がった真っ黒な炎は、私の制止の言葉にすぐ消えた。ウォーレンさんを睨んでいたラクが、止められたためだろう、愕然とこっちを見る。

 そこへ、床から鎖が生き物のように生えてきてじゃらじゃらと絡み付いた。

「な、なんだ、これ?!」

 鎖はラクの首にも巻き付く。

「うわっ、この……ヤメロ!」

「ウォ、ウォーレンさん!」

 ウォーレンさんは光のないガラス玉のような目で私を見た。

「知らないと言っていたのに、君はあいつを知っている」

「そ、それは……」

「ウォーレン。止めるんだ」

 壁際から静かにアルが言う。

 鎖はラクに巻き付いたまま、ピタリと動きを止めた。

 よ、良かった。

 ───いや、良くない。アルもリックも、異物でも見るような目で私を見ている。

「お嬢。誰だよ、あいつ」

「えーと……」

「テッド?お前、なんで姫さんのそばにいるのに、ちゃんと姫さんを守ってないんだよ!」

「あぁ?」

 ひゃっ!!

 ラクが余計な一言を発し、リックの眉がぎゅっと上がった。

「お嬢!どういうことだ!」

 ラクの……ラクのバカァ…………!


 ウォーレンさんの術によってラクは眠らされた。

 そして私は、手首に枷を着けられて檻から出された。ウォーレンさんが最後まで渋っていたけれど、アルが檻から出すように言ってくれたからだ。

 だけどアルは無表情になったまま、一度も目を合わせてくれない。

 リックもすごく怒っている。

 ……どうしよう。私、この世界で周りが優しいことにすっかり甘えていたかも知れない。何をしても許してもらえるって思い込んでいたかも。

「アリッサ。僕の思い違いだといいんだけど」

 椅子に座る私の前にアルが来て、静かな、静かな声で尋ねてきた。

「……あの少年は、去年、モラ湖で僕らを監禁した一味の一人じゃないのかな?僕を蹴り飛ばし、君の髪を掴んでナイフで脅した少年と同一人物に見える」

「は?」

 リックが目を真ん丸にして私を振り返る。ウォーレンさんは顔色が青を通り越して灰色になった。

「何を……考えてんだ、お嬢!ふざけるにしても、ほどがあるぞ!」

「ふざけて……ない。だって……私には責任があるって……思ったんだもん」

「リック。少し落ち着くんだ。それとアリッサは、1から説明してくれるかい」

「うん……」

 一切感情を見せないアルが悲しい。

 私……すごい間違いをしてしまったんだ…………。


 それから私は、何度も口ごもりながらこれまでの経緯を話した。

 アナベル姉さまが毒で倒れて数日後にラクと庭で会ったこと。咄嗟に殺そうとしてしまったこと。だけどラクの方に害意はなく、モラ湖で私が言った「幸せになる努力をすべきだ」という言葉の意味を教えて欲しくて来ただけだと知ったこと……。

「……いや、それでなんで自分を殺そうとした相手を許せるのか、やっぱ、分からねぇんだけど」

 リックが行儀悪い姿勢で椅子にもたれながら、まだ険しい顔のままぼやく。最近、言葉遣いが丁寧になっていたのに、だいぶ乱暴な口調だ。

 私は俯いた。

「だって……私、自分の力を悪いことには使わないって約束したのに……ラクを見た瞬間、殺そうとしたんだもん。ラクにモラ湖でいろいろ言ったけど、そんなこと言える資格なんて、私には無かったんだと思う……」

「馬鹿か、お嬢は?お嬢はアイツに殺されそうだったんだろ?だったら、次に会ったときに攻撃するのは当たり前じゃねぇか!」

「でも……そのときのラクは私を頼ってきたんだし」

 ハッとリックに鼻で笑われた。

「問答無用で女子供を100人殺したヤツが、お嬢に“これからは平和に暮らしたいから手を貸してくれ”と言われたら、お嬢は受け入れるのか?そんなの、おかしいだろ」

「エエ……ソウデスネ…………」

 でもね。

 ラクは、生まれ育ちが複雑なんだよ。人を殺したらダメとか、そもそも人から愛されたこと人を愛することを、知らないんだよ。誰も教えてくれなかったら、どうやってそれを知るの?何も教えてもらえず、人の殺し方しか教えてもらえなかったラクに……罪はあるの?

「お嬢は優しい。博愛精神にあふれてる人だってのは知ってる。俺はそれを尊敬しているよ。でもな。コイツを許すのは少し違う」

「私……全然優しくなんか、ない……」

 ポトリ。

 涙が勝手にこぼれてきた。

 ああ、最悪。ここで泣くのは卑怯だ。泣いちゃ……ダメ。

 リックが深い溜め息をつく。それは、リックが私を見放した合図のようにも聞こえた。

 カタン。

 軽い音がして、アルが立ち上がる。

「この件は、僕らだけで済ませられる話じゃないね。火龍公爵を呼んでくる」

 何の感情も乗せない平坦な声。

 アルにもリックにも見放されて……お父さまからも見捨てられたら、私はどうすればいいんだろう?

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