四龍会議
アナベル嬢の件は、さすがに四龍全員に知らされた。
王城で行われたマーカス兄上の誕生日パーティーでの凶行だ。隠しておいて良い案件ではない。
それに伴い、内密にしていた去年のモラ湖の件も四龍で情報共有することとなった。
そのためだろう、僕も四龍会議に呼ばれた。
「……アルフレッド殿下も狙われたと?火龍の娘御と一緒に?」
地龍公爵ダライアス・ラヴクラフトが元々不機嫌そうな顔を更にしかめて、むっつりと言う。
地龍公爵は浅黒い肌をした五十代半ばの御仁だ。洗いざらしたような灰色の短髪、濃紺の瞳をしている。
「そのような重大な件を何故隠していた、火龍の。己は王家へ娘を嫁がせようと躍起になって、我ら四龍の役目を忘れたのではないだろうな」
「……諸々の状況から、大公方の関わりが否定できず、陛下が秘匿するよう判断されました」
オーウェン団長が横から静かに割って入る。地龍公爵はふんっと鼻を鳴らした。
「どうであろうな。陛下は火龍の言うことにはあまり異を唱えられん」
「地龍翁」
「事実であろうが」
火龍公爵は四龍としての役目を忘れたことなんて、ない。僕やシンシア様が身勝手にアリッサを望んでいるだけだ。
今、ここで僕が口を挟んでも……良いものだろうか?こんな言われ方をするなんて納得がいかない。だけど火龍公爵が何も言わないので、やきもきしてしまう。
「そういえば最近は商売の方もかなり手を広げておると聞く。富と権力を手に入れて、さて、何を狙っておるのやら」
「翁!」
「おや、珍しい。水龍が火龍を庇うか?……ああ、水龍の倅も火龍の娘に入れあげておるんだったか」
ガタッ。
水龍公爵が険しい顔で立ち上がる。それを、ふわりと止めた手があった。
四龍最後の一人、風龍公爵メイジー・アシュベリーだ。
「止められよ。……アルフレッド殿下が気を揉んでおられるではないか。まったく、翁も人が悪い。あまり火龍をいじめては可哀相というもの。娘御が危ない目にあっておるのだ。揶揄うのも大概になさる方が良いぞ」
風龍公爵は四龍で唯一人の女性だ。
しかし緑味がかった銀髪は後ろが短く刈り上げられ、いつも男性物の衣装を着ている。一見すると、非常に麗しい男性にしか見えない。しかも地龍公爵より三つほど年下らしいのだが三十代でも通りそうな若い外見で……僕にはかなり謎な人物だ。
今日はその彼女の横に、まだ十代後半くらいの……女性だろうか?男性だろうか?風龍公爵に似た風貌で髪の長い人物が座っていた。現風龍公爵は独身なので、親戚から養子を迎え、後継として教育中だと聞いている。きっとその後継だろう。
「ふん。火龍は色々と派手にやり過ぎだと言いたいだけだ」
「うるせぇ、くそジジイ!」
?!
「マックス!落ち着け……!」
「落ち着いていられるかっ!さっきから黙っていればジジイ、言いたい放題言いやがって……うちの可愛い娘がまだ目を覚まさないってのに、こんなくだらない会議をやってられるか!!」
ドカンと机(!)を蹴っ飛ばし、火龍公爵が地龍公爵の胸ぐらを掴んだ。慌てて水龍公爵が止めに入る。
……いつもの火龍公爵と違いすぎて、僕は目が点になってしまった。
これは?
オーウェンがそっと僕を安全圏へ誘いながら、教えてくれた。
「火龍公爵は昔はかなり血の気が多かったと聞いております。公爵になられたばかりの頃は、毎回、地龍公爵と喧嘩の日々だったと……」
「そ、そうなんだ」
「地龍公爵が一番の重鎮なのに、わざと引っ掻き回すことばかり仰られますからね……。火龍公爵が荒れてる今、会議がちゃんと進むかどうか……」
その次に抑えとなりそうな風龍公爵はニヤニヤしながら高見の見物だ。収める気はまったく無さそうである。
なるほど。
水龍公爵は口数の多い方ではないし(父上も頼りない……今もオロオロとしているだけだ)、火龍公爵が大人になって四龍をまとめるしかなかったという訳か。
結構、火龍公爵は苦労人なんだな……。
騒ぎを収めるのに時間が掛かり、今回の件、モラ湖の件の話し合いは簡単にまとめるだけで終わった。
ただ、モラ湖の件があったため、安全対策として僕、マーカス兄上、ザカリーには王家の影が密かに付けられていたと初めて知った。パーティー中、僕らには何も危険な流れはなかったらしい。
……ちなみに兄上は、変装してアリッサと会っていたそうだ。火龍公爵も知らなかったらしく、唖然としていた。(そして地龍公爵が要らぬことを言って、また大騒ぎだ)
ということで、今回はっきりしているのは、五大公はまったく動いていないこと。そして、何故かザカリーの専属侍女が動き回っていたこと、だそうだ。
といってもザカリーがアナベル嬢を害そうとする理由もないし、侍女が動き回っていただけでは何も判断しようがないのだけれど。
ようやく四龍全員登場……!
これにてアルフレッド視点2は終了です。次からアリッサに。
 




