目が覚める衣装の効果
火龍公爵家の姉妹が会場へ入ってきたとき、入り口の周辺が大きくどよめいた。
僕はそのとき、余所見をしていたのだが、ざわっと空気が揺れたことに驚いて辺りを見渡した。壇上の高いところに座っているので……黒と赤の派手な二人組は遠くからでもよく見えた。
……その二人組。祝いの場に参加するにしては、どうにも禍々しい雰囲気を醸している。
まだ顔がよく見えない距離だったけれども、僕にはすぐ(アリッサだ)と分かった。あの鮮やかな紅い髪は、彼女以外、有り得ない。
いや、それにしても。
ちょっと……毒々しすぎないだろうか?
恐ろしいことに、とても似合っているのもどうかと思う。普通のドレスより合っているかも知れない。
近くでシンシア様が息を飲む音が聞こえた。
「な……な、ななな…………」
言語障害に陥っているようだ。
少しだけ愉快な気分になって、そっと壇上を見渡してみたら……火龍公爵がにやりとしているのが見えた。
まあ、当然とは思うけれど、公爵公認なのかぁ。
でも……。
いいんですか、火龍公爵。あなたの可愛い娘たちが今後、社交界の毒花って噂されるようになるかも知れませんよ?それで婚約者に名乗り上げる者が減るなら、僕は歓迎すべきなのかも知れないけれど。
───アナベル嬢とアリッサが兄上の前に来た。
アナベル嬢はライアン殿に、アリッサはマシューにエスコートされている。
ライアン殿は広く顔が知られているが、マシューはカールトン商会を利用している一部しか知らないからだろう。彼への注目度が異様に高くなっていた。アリッサがまた自然と寄り添っているので(マシューを信頼しているのは分かる。分かるけれど、端から見るとかなり親密そうに見えて……複雑な気分だ)、詮索に拍車が掛かっているのではないだろうか。
マシューからはこのエスコート役は荷が重いというようなことを聞かされていたが……なかなかどうして、堂に入ってるじゃないか。つまらない嫉妬をしそうだよ。
兄上には、二人のド派手な装いが相当面白かったらしい。
それまで誰に対しても無難な挨拶しか返してなかったのに、身を乗り出して話し掛けている。
……後ろでシンシア様がプルプルし始めた。大丈夫だろうか?
アナベル嬢は恐れる風もなく兄上と挑戦的な受け答えをし―――そして、姉妹仲良く去っていった。
「……気分が悪いわ」
ぼそりとシンシア様が呟いて、席を立った。
「大丈夫ですか、母上」
「マーカス。あなた、腹が立たないの?!」
「え?ちょっと眠くなってきたなぁという頃だったので、良い目覚ましになりましたね」
「何を呑気な!……席を外します」
不快全開な顔を扇で隠し、シンシア様は奥へ下がった。
途端に兄上がパッと輝いた顔をし、僕を振り返る。
「アルフレッド。少しノドが渇いたから飲み物を飲んでくる。代わりに挨拶を受けておいてくれ」
ええっ?!シンシア様がいなくなったからって、ここから逃げ出す気か?それはずるい、兄上!
 




