鍛えすぎ?そんなことないと思う
マーカス兄上にプレゼントの剣をこっそり渡したら、予想以上に喜ばれた。
大事に部屋に飾って一生大事にすると言われたので、折れるくらいガンガン使ってくれる方が嬉しいと言っておいた。
さて、兄上の誕生日パーティーの前日。
パーティーで着る礼服を用意していたヘザーが怖い顔をして僕の前に来た。
「殿下。ちょっと羽織っていただけますか」
「ええ?もうすぐ政治学の先生が来るんだよ。あとでいい?」
「ちょっとだけですから!」
珍しく強引に言い、上着を着せられる。
なんなんだよ、もう。礼服も妙に着にくいし。
いつの間にかブランドンも横に来ていて、ヘザーと二人で眉を寄せていた。
「これは……」
「先月、新調したところですよ?!」
「……もう脱いでいい?窮屈なんだけど」
その途端、ヘザーにぐいっと肩を掴まれた。
「殿下!この頃、剣術だの何だの、身体を鍛えすぎじゃありませんか?!」
「は?」
「肩回りが合っていません!……ああ、二の腕も太くなってるぅ!!」
えーと……。
「せ、成長期だし……」
「違います!少し大きめに作っています!殿下が筋肉を鍛えすぎなんですぅぅぅ」
で、でも……男だったらひょろっとしているより、がっしり筋肉質な身体になりたいものだし。それに僕の筋肉なんて、可愛いものだと思う。兄上と比べてもまだまだ細い。
だけど、ヘザーの剣幕がすごくて僕は反論が出来ない。口籠って上目遣いにヘザーを見つめていたら、ううう……と本気で泣かれてしまった。
「急にこんな筋肉質になって、王妃さまもどれだけ悲しまれることか……。アルフレッド殿下は王妃さまに似てとても麗しい容姿をしていらっしゃるのに……ムキムキに……ゴツゴツになるなんて……ああ、少し前のあのお可愛らしい殿下は、どこへ……?!」
いや、まだムキムキになってない。……いずれ、そうなりたいけれど。
「姫じゃないんだから。いくら母上に似ていても、もっと大人になれば声も低くなるし骨格も変わる。妙な幻想を押し付けないでくれ」
「いいえ!幻想ではありません!殿下が鍛えすぎなんです!」
まったくもう!僕は母上やヘザーの可愛い着せ替え人形じゃない!
とはいえ礼服が合わなくなっていたのは事実なので、政治学の授業は急遽取り止めとなり、仕立て直しの計測をされた。
お針子達が決死の形相になっている。
一晩で直してもらうわけだから、これに関しては申し訳ない……。
(なおブランドンには、「わたくしめには、殿下は以前より男ぶりが上がって格好良くなったと思いますなぁ」とそっと誉めてもらえた)
 




