不穏なお茶会が始まった
まったく気乗りのしないお茶会の日となった。
ヘザーから「そんな顔をなさってはいけません」と朝から説教される。……分かっているけれど、勝手に口がへの字になるんだから仕方がない。
ザカリーの陰気具合は見事なほどいつも通りだったが、マーカス兄上は張り切っているのが見え見えだった。
アリッサが参加しないなら、好きなだけ張り切ってもらっていいんだけどなぁ……。
僕としても、兄上にはさっさと婚約者を決めてもらって、王太子としての立場をがっちり固めて欲しい(とはいえ、クローディア嬢は厳しいと思う)。そのために影ながら手伝うことは全く嫌じゃない。僕だって早く、誰からも期待されない気楽な位置へ行きたいのだから。
まあでも、なかなか難しい課題だ。
───さて、お茶会へ来たアリッサは、あまり着飾っていないにも関わらず目を惹いた。
水龍家の双子は美しいのだろうけど、アリッサの持つ生命そのもののような力強い輝きの前では霞む。そして、初めてのものや珍しいものを見たとき、すぐにあの綺麗な金色の瞳をキラキラさせるのだけど……ほら、今日もキラキラさせて興味津々な顔であちこち見ている。駄目だよ、アリッサ。その顔はホント、周囲の注意を引くんだよ……。今度、クローディア嬢に“高慢なご令嬢”風な表情の作り方を教えてもらうよう、勧めようかな……。
僕の前で、兄上が少しだけ息を飲んだのに気付いた。目がアリッサに釘付けになっている。
あー、やっぱり……。
そういえば、兄上はアリッサに会ったことなかったっけ。
どうすれば、兄上とアリッサを喋らさずにお茶会を終わらせることが出来るだろう?
誰も喋らず気不味い雰囲気のままでいれば、マーカス兄上も早めに切り上げるはずだ。
エリオット達も同じことを考えているのだろう。明らかに言葉数が少ない。兄上の視線での問い掛けも、素知らぬ顔で受け流している。
ザカリーは元々、喋ることはないので……このまま全員無言を貫けば、思ったより平穏にさっと終わりそうだな。
と、思っていたのに。
……アリッサ?!
何故、そんな和やかに兄上とあれこれ喋るんだ!
しかも、やたらニコニコするし。今の会話のどこに、そんな笑顔になる要素が?!
クローディア嬢もエリオットも、すっかり不安そうな顔になっていた。クローディア嬢にいたっては、何度か口パクで「口を閉じて!」と合図する始末だ。アリッサは全く気付いていないのだけど。
アリッサ、まさか兄上のこと、気に入った…………?
 




