うーん、悪徳商人道を極めようかしら
振り返ると……ん?王子??
黒髪なので驚いたけど、確かにアルフレッド王子だ。お忍びで変装してるということだろうか?隣には、人の良さそうな20才前後の男性がいる。
「いらっしゃいませ、すこし おまちくださいませ」
お忍びなら、殿下とかアルフレッド様とか言ってはいけない気がして、とりあえずそれだけ言って、ニッコリと頭を下げる。
で、ジェンキンス侯爵に、
「では、こちらの商品は、こうしゃくのお屋敷にとどけますね。サービスに、こちらの茶葉をおつけしますわ。東の国から仕入れたばかりのとても香り高いお茶なんです」
と急いで対応した。侯爵は満足そうに頷き、「では、また来月、お会いしましょう」と私の手に優しいキスをして帰ってゆく。あ~あ、結局、新商品を全部侯爵に売っちゃった。
オーラムジャムをジェンキンス侯爵家に配達するよう指示を出して、改めて王子に向かい合った。
「……君は店員として、店に立っているの?」
信じられないという顔で王子が問うてくる。私はこてんと首を傾げた。
「月に1度だけですけど」
「公爵家の娘なのに!」
「どうして、公爵家のむすめが店員をしたらダメなのですか?」
「!」
絶句する王子。
まー、確かに貴族のお嬢様のすることじゃないよねー。
でも、平民落ちしたときのためにお金は稼いでおきたいし、私、前世でも働いたことなかったもの。子供で大目に見てもらえるうちに、経験積まないと!で、実際に働いてみたら思ったより楽しいしね。客商売は向いているのかな?って思う。
ていうか、こんなことになるなら、前世で少しくらいバイトしておけば良かった。お母さんは許してくれなかったけどさ。
「せっかくなので、当店じまんのジャムの ししょくをされますか?」
王子が呆然として動かないので、なんとなくジャムの試食を勧めてみる。
すると、隣に立っていた青年が屈んで話をしてくれた。王子よりも薄い水色の綺麗な瞳だ。黒髪なのだけど、これはやっぱり王子と同じように変装だろうか?
「ぜひ、試食をしてみたいです。これだけ沢山の種類があると迷ってしまうので、いい試みですね」
「ありがとうございます」
青年は、ウィリアムと名乗った。王子の従兄らしい。王子のお忍びの付き添いみたいだ。ん?従兄?てことは、王族?
王都店で売り子するなら、もう少し高位貴族の顔と名前を覚えた方がいいのかも。写真つきの貴族年鑑みたいなのがあれば便利なのになー。それでなくても人の顔と名前を覚えるのは得意じゃないから、ホント、苦労するわ。
王子とウィリアム様には、3つほどオススメなジャムを試食してもらい、結局、全部お買い上げいただいた。
二人とも本当に美味しそうに食べていたので、お得意様になってもらえるんじゃないかしら。
うふふ、順調に顧客を増やしているわ~。最近、顧客名簿や帳簿を見るのが楽しみなのよ。店長と二人でにまにまして見ている。もう、悪役令嬢じゃなくて悪徳商人を極めるのも悪くないんじゃない?って思うくらい。
そのうち、自分で商会を立ち上げようかしら。女社長って、格好良くない?
……そういや、王子ってお忍びで街に出るんだ?他の商会でオススメな店をぜひ今度、教えてもらおう。色々、見学していい所はどんどん取り入れなくちゃ!




