楽しい出来事の後は面白くない現実
楽しい火龍家でのお泊まり体験のあと、王城へ戻るなり嫌な話が待っていた。
……父上の名前を前に出してはいるものの、マーカス兄上主体で、アリッサやクローディア嬢とお茶会をするらしい。
これは確実にシンシア様の策略だ。一応、僕も参加するよう言ってくるあたりがイヤらしい。
はあ……一気に現実に戻された。憂鬱だ。
なにせ、兄上はもうすぐ10才。なのに、まだ婚約者が決まっていないという事態。シンシア様も焦っているんだろう。
出来れば、マーカス兄上の立場を強固にするためにクローディア嬢を婚約者に据えたい。しかし、残念なことにこの話は一向に進まない。
その一方で、僕とアリッサの婚約話も進んでいない。それなら、いっそアリッサを取り込んでしまえば、強力な後ろ楯の取得と第二王子(僕)を潰すという最強布陣が出来て良いのでは───と目論んでいるに違いない。
まあ、火龍公爵は絶対に承諾しないから大丈夫だろうけど。
ちなみに、侯爵家、伯爵家でシンシア様的に狙いたい女子があまりいないというのも、この問題が複雑化している要因でもある。ちょうど良さそうな子は、たまたま4、5才で婚約者を決めてしまったのだ。
残っているのは、政治的に影響力の弱い家や、落ちぶれかけている家、シンシア様とは対立する派閥の家。
という訳で、クローディア嬢かアリッサという選択肢がシンシア様からどうしても消えないのである。
……不思議なのは、アリッサの姉上、アナベル嬢も候補に入って良いはずなのに、入らないという点だ。
どうもシンシア様はアナベル嬢が嫌いらしい。らしい、というのは、ヘザーが侍女同士の噂で聞いてきただけで詳しい理由が分からないからなのだけど。
ともかく、そういった事情もあり……マーカス兄上、僕、ザカリー、アリッサ、アナベル嬢、クローディア嬢。この国の高位者の婚約者が全然決まっていない。
おかげで僕らの年代の子供は、婚約者未定の者が以前に比べると多いそうである。
女子なら、僕ら王族に嫁げる可能性。
男子なら、アリッサ達。
そりゃ、多くの貴族は夢を見るよな。
この状態のまま、学校へ通い始めたら……きっと、かなり面倒なことになるだろう。
あーあ、アリッサに仮婚約者の話でも持ち掛けてみようかなあ。
いやいや、それをすると本気で口説いたときにアリッサが「仮だから」と軽く受け流しそうだし、シンシア様の風当たりも絶対に強くなるし。僕を担ぎ上げたい輩が出てきて大変だしな。駄目だよな。
……はあ。どこかにマーカス兄上にちょうどいい女の子、落ちていたらいいのに。




