適度な運動と美味しい食事と
本日の更新、少し遅れました…
翌朝。
夜更しが祟ったのだろう、眠くてなかなか頭がしゃきっとしなかった。アリッサがそんな僕を見て、クスクス笑いながら寝癖を直してくれる。
うわあ、最高の朝だ。毎朝、こんな風ならいいのに。
(とっても幸せな気分になったけれど、後でウィリアムのニヤニヤした顔に気付いた。部屋の隅に控えながら、しっかりこっちを見ていたらしい。せっかくのいい気分が台無しだ)
朝食のあと、アリッサが習っている護身術をみんなでやることになった。
先生は老齢だが、動きに無駄がなく矍鑠としている。
僕は剣術中心なので、一体どんなことを教えてもらえるのか、わくわくしていたけれど……案外、基礎的な柔軟や体力強化メニューが多い。これ、護身になるのかなあ?
僕の疑問を読み取ったのだろう。ラモン先生はニヤッと笑って僕に身を寄せた。
「殿下は、もっと本格的なものをお望みのようですな」
「いえ、そういう訳では」
「公爵閣下からの厳命でしてな。お嬢様を鍛え過ぎないように言われとるんですよ」
……鍛え過ぎないように?どういう意味だ?
「お嬢様は毎日、自主的に勝手に走り込みをしております。速さはそれほど速くありませんがな、今なら屋敷周りを10周くらい、軽く走れましょうなあ」
「10周?!」
「火龍家の血ですかのー、体を動かす勘が恐ろしく良いんですなぁ。剣術だの体術だのをきちんと教えたら、かなり伸びそうですよ。……そんな訳で公爵閣下は、お嬢様が騎士になると言い出さないか心配しておるんです。乗馬を教えることも禁止しておりますでな。ま、そうは言っても、お嬢様は護衛騎士達のところにも顔を出しておりますで、どこまで抑えられるか怪しいところですが」
そりゃ、心配になる。戦える力を付け、馬にも乗れるようになったら―――アリッサなら身一つで冒険に出るだろう。
……これは僕もうかうかしてられない。そもそも現時点でアリッサに体力負けなんてゴメンだ!
その後、温室でタコスパーティーとやらが開催された。
薄い皮に様々な具材を挟み込んで食べる食べ物らしい。……美味しい。
エリオットと2人で、どちらがより美味しい組み合わせを作れるか競ってしまった。おかげでお腹がいっぱいだ。
「食べ過ぎました……」
「うん、僕も苦しい。……こんなに楽しくて美味しい食事が毎日続いたら、あっという間に太りそうだよ」
まったくもう。火龍家は……本当にすごい。そしてズルイ。
「しっかり食べましたかな、殿下」
「オーガスト閣下。……お腹いっぱいです」
僕とエリオットがベンチで休んでいたら、オーガスト閣下が話しかけてきた。
「目一杯体を動かして、よく食べる。これが体を作る基本ですぞ」
「はい。……あ、閣下が昔、魔物退治にあちこち行かれた話を伺っても良いですか?」
そうそう。いずれ魔獣討伐隊に入ろうと決めてから、一度、閣下の話を聞いてみたかったんだ。
討伐隊の一員ではないのに、いまだに討伐隊の騎士から憧れの目が注がれているという槍の使い手。一人で大型の魔獣を倒したって本当なんだろうか?
閣下は「年寄りの自慢話なんぞ、面白くも何もないでしょう」と笑いながらも、色々と話してくれた。
―――閣下の話はすごかった。面白かった。
僕にはとても閣下と同じような生き方は出来ない。閣下を超えることは無理でも、並ぶくらいなら……と目論んでいたけど。それも厳しそうだなぁ。




