火龍公爵との約束(というか、脅し)
パジャマパーティーなので、夜は子供たちが一部屋に集まって寝るという話になったら……火龍公爵の顔色が変わった。
「いくら子供とはいえ、男女同室は駄目だ!」
まあ、普通はそうだろうなあ。
だけど、アリッサは公爵の剣幕を恐れることもなく「でも、アルもエリオットも、前に一緒にパジャマパーティーやったもん」と返す。
あ、やっぱりエリオットも一緒にパジャマパーティーをやっていたのか……。クローディア嬢も一緒だろうけど、ちょっとモヤモヤするなあ。
もっとも、大きな声では言えないけれど、僕はアリッサと二人っきりになってるし、2回もやってるしね……。
───火龍公爵は目を大きく見開き、僕やエリオットを順々に見た。
思わず身を縮める。いや、決して、僕は疚しいことはしてない。
でも、今夜はエリオットと二人で別室かな?と諦めたら、アリッサの祖父・オーガスト閣下が取り成してくれた。
アリッサはオーガスト閣下にかなり懐いていると聞いたことがあるけど……なるほど、この鷹揚さが閣下の魅力なんだろう。アリッサのウルウルとした瞳が深い感謝と愛を湛えて祖父に向けられている。
閣下ほど、器の大きな男になるには……どうすればいいのかな?
オーガスト閣下のおかげで、僕とエリオットはアリッサと同室で寝ることを許された。
しかし、火龍公爵に隣室へ連れて行かれる。
「……すでにパジャマパーティーをしたとは、どういうことですかな」
目が座っている。こ、怖い……。
「……王城の怖い話をしたせいで、彼女をかなり怖がらせてしまって……一人では眠ることが難しそうでした。なので、眠るまでそばで話をしていたんですが……その、いつの間にか僕もそのまま寝てしまって……すみません…………」
モラ湖では隅に侍女が控えていたから、まあ、良しということで。
僕の説明に“ああ!”という顔を公爵はした。そして意外そうに首を傾げる。
「そんなに怖がっていたんですか?」
「鏡に布を掛け、クッションを集めて壁を作って……どうやら一人で対処するつもりだったようですが、あまりに怯えた様子だったので」
「そうですか……」
火龍公爵?
確かにアリッサは豪胆なところがあるけれど、まだ6才の少女ですよ。その辺はもう少し心配してあげてください……。
エリオットの方は、モジモジしながら「クローディアが一緒にと言い出して……」と告白した。
断らなかったのは何故だ!と怒られるのではと目が泳いでいる。
だけど、火龍公爵は深い溜め息をついて僕らを順番に見た。
「……アリッサが楽しみにしていたので、今回は目を瞑りましょう。しかし!私は娘を本当~に大事にしています。いいですか、もう一度言いますよ?娘がとても大事なんです。正直、嫁に出すことも本当は嫌なんです」
え?そ、そうなのか?
「という訳で、決して。決して不埒な真似はされませんように」
妙に底光りする金の瞳で見据えられ、僕もエリオットもただコクコクと頷くしか出来なかった……。
 




