僕の知らないアリッサの一面をいろいろと知る
火龍公爵邸でパジャマパーティーをする日になった。
その前にアリッサの魔力瘤の治療もある。
治療のときはなるべく僕も一緒にいるようにしたいのだが……さすがに2日続けて自由には過ごせないので、アリッサを隠者の塔に案内し、後でまた迎えに来ると説明する。
アリッサは、まったく気にした様子もなくニコニコと手を振って、見送ってくれた。
……アリッサが王城へ来ていることはほぼ誰も知らない。また、ウォーレンの塔に悪意ある何者かがこっそり侵入することもないだろう。
だけれど、安全なはずの保養地で襲われた事実が僕を不安にさせている。僕なんか、大して役には立たないのに……王城でアリッサを一人にするのはどうしても心配なのだ(ま、僕よりも頼りになるウォーレンもリックもいるけれども)。
ちなみに今日のパジャマパーティーの件、父上には知らせている。
火龍公爵と一緒にその話をしたとき、父上がとても悲しそうな顔になってビックリしたものだった。
「マックス……余も」
「駄目です。陛下まで我が家に迎えるのは負担が大きすぎる」
火龍公爵は冷たく言い切り、わざとらしい笑顔を浮かべた。
「そもそも今回のお泊まり会は、子供たちのための催しですよ。陛下が首を突っ込んだら、台無しじゃないですか」
父上は火龍公爵より一つ年上だったはずだが、シュンと項垂れる父上はとても────年上にも、一国の王にも見えなかった。
父上と火龍公爵の学生時代って、どんな感じだったんだろう…………?
さて、とうとう火龍公爵邸へ。
まずはアリッサの部屋に案内された。
アリッサの部屋は……一方の壁がすべて本棚になっていて、上から下までみっちり本が詰まっていた。
……6才の女の子の部屋らしくない。
「本だらけだ……」
「壁一面の本棚って憧れだったから……」
思わず心の声をもらしてしまったら、アリッサが照れたように答えてくれた。
壁一面の本棚が憧れ?やっぱりアリッサは変わっている。
でも、本棚のところどころに小さな可愛い木彫りの動物が並べてあったり、ベッドにはウサギのぬいぐるみがあったりして、そのへんはちょっと安心した。変なお面や怪しげな魔法具ばかり置かれていたら……きっと僕は、これから先、アリッサに何を贈ればいいか非常に頭を悩ませることになっただろう。
ちゃんと、可愛いものも好き……なんだよね?
リックの弟、テッドを紹介される。
リックととても似ているのに、落ち着いた雰囲気のリックと違い、元気が内側から勝手に溢れでているようなタイプだった。
「テッドです!第二王子殿下とお会いできて光栄です!!」
力一杯挨拶しながら、兄に視線をちらっと向ける。たぶん、これでいいか?と確認しているようだ。
リックがホッとしたように頷く。
普通の兄弟って、こんな感じなんだろうか。少し羨ましい。
「もっと力を抜いてくれていいよ」
「オレ……あ、私はまだ礼儀がなってなくて失礼がいっぱいあるので……」
「アリッサと同じように接してくれて構わない」
「えっ」
せっかくだから、僕だってアリッサと同じようにリックやテッドとは友だちになりたい。難しいとは分かっているけれど、そう言ってみたら。
テッドは絶句し、今度はアリッサの方を向いた。
……んんん?そこで即答できずに固まるくらい、アリッサとは“砕けた”付き合いなんだろうか?
その疑問はすぐに解決した。
その後、筋肉の話で盛り上がり、テッドが腹筋を見せてくれて───
「ちょっと、テッド!さすがにレディの前でそれはないわ!」
「は?レディ?どこに?」
「……目ん玉、洗おうか?よく見えるように」
確かに、砕けたテッドの言葉遣いは僕には聞き慣れないものだった。だけど、それ以上に“砕けている”アリッサに僕はとても驚くこととなった。
ううーん、これは僕の知らないアリッサの一面、まだまだありそうだなぁ。
 




