看板娘は大忙しなのです
レシピの猫を描いてくれている絵師に、絵本も描いてもらうことにした。
ストーリーは、まんま「長靴を履いた猫」。ただ、ラストはお姫様と結婚するんじゃなくて、一代限りの男爵に任じられ、以前から想いを寄せていた男爵令嬢と結婚するという結びになっている。庶民がお姫様と結婚する展開はぶっ飛び過ぎらしい。別にいいと思うんだけど、誰に聞いても仰天するので諦めた。
とりあえず、著作権とか、異世界だし大丈夫だよね?あ、長靴を履いた猫は、もう著作権の切れてる話だったかしらん?ま、いいや。
これを販売するときには、猫の刺繍をしたポーチとか、可愛い缶とか、便箋なんかも作って一緒に売るのだ。楽しみ~。
なお、長靴を履いた猫は私が考えたワケじゃないのに「お嬢様はまさに創作の女神ですね!」とここでも称賛の嵐だった。あああ~、悪徳感が増す気がするわ~。
絵師に絵本原案を説明したあとは、お店で売り子に。
最初、お父さまは貴族の娘が売り子をするなんて!とお怒りモードだったんだけど、ジャムの試食という初めての催しに対応法が分からなかった店長が後押しをしてくれて、以後、常連客に大好評なため月に1回の売り子を続けている。私の接客が素晴らしいってことで、全店員に指導も行った。
てゆーか、基本は笑顔対応だけなんだけどね。この世界は、笑顔接客って普通じゃなかったのかしら?
あと、やっぱり幼女の看板娘の効果は絶大よね。舌っ足らずな感じで一生懸命、商品説明されたら、誰しも思わず買っちゃうって(この舌っ足らずな感じは、わざとやってるんだけどさ)?
あ、ダメだ。悪徳商人道へどんどん進んでいる気がしてきた……。
───今日も私の大ファンなジェンキンス侯爵が朝からやって来て、新商品の説明を聞いている。
「このオーラムという果実は、今年、はじめて さいばいした品種なのですが、さん味と甘味のバランスがとても良くて、オススメなんです」
「ほうほう。では、棚に出ている分も在庫分も、すべて購入いたしましょう」
「まあ!ジェンキンスこうしゃく、それはとても うれしいですけど、少し のこしていただかないと。この秋の目玉新商品なのに、その目玉がなくなってしまいます!」
私が口を尖らせて文句を言うと、侯爵は眉尻を下げて、「新商品だからこそ、私が独占してみたいのだよ」とニコニコと仰った。
うーん……まあ、いいか。
うちが宣伝しなくても、ジェンキンス侯爵がせっせと配って宣伝してくれるってことだもんね?ジェンキンス侯爵は美食家として名高いので、彼からのお墨付きがもらえるのは有り難い。
頭の中で色々算段していたら、「アリッサ嬢?」と驚いたような声が掛かった。




