僕は、たぶん誰にもアリッサを渡したくない
気は進まないけれど。
この話は、しなければならない。
───アリッサに、一定レベルを超える魔力量は国の管理下に置かれること、隷属の首輪が付けられ一切の自由はなくなることなどを説明する。魔力量の多い者は滅多に現れないので、そんな対策があることを大半の人は知らないかも知れない。
ウォーレンも管理されている一人だと言ったら、アリッサの金の瞳は真ん丸になった。
リックが真っ青になって立ち上がる。
「お嬢───お嬢様と殿下が婚約者であれば、そういう束縛は必要ないのでは」
……まあ、普通はそう考えるかな。王家の人間と婚約関係にあれば、ある意味、管理下にあるようなものなのだから。
だけど、僕は第二王子だ。
「もし、王族との婚姻で隷属の首輪が免除されるというなら、僕ではなくマーカス兄上と婚約になるだろう。もしくは……父上、国王陛下だ」
「そんな!」
悔しいけれど、これが現実だ。
アリッサが魔法を使えることを知り、そのスムーズな扱いから(もしかして魔力量が多いかも)と思ったときの、僕の絶望感といったら!
大きな魔力量の持ち主は、ある意味、兵器だ。
国の中で無用な争いが起きることを防ぐため、確実に、現国王か次期国王の妃に据えられる。
……アリッサがマーカス兄上と?
そんなの、仮定でも考えるのは嫌だった。
アリッサが僕以外の人を好きになって、その人を選ぶなら……辛いけれど、受け入れようと思っていた。だけど、そうではなく、政略的な意図でマーカス兄上となんて──―絶対に納得いかない。
ああ、でも、もしアリッサがマーカス兄上なら婚約してもいいと言ったら?
僕は絶望して、立ち直れないかも知れない。思ったより、僕は心が狭いようだ。
それだけアリッサのことが好きになってしまったのか、それともマーカス兄上に対する対抗心なのか。この気持ちは一体、どっちなんだろう……?
何度も考え込んでいたことをまた脳内で繰り返していたら、アリッサの顔色が悪く、目が虚ろになっているのに気付いた。
「アリッサ!……ごめん、急にいろいろ、話しすぎた。ちょっと休もう。横になるかい?」
アリッサは、僕に手を引かれるまま大人しくソファに横になった―――。
温かい紅茶を淹れる。
リックが手伝おうとしてくれたけれど、手で制した。
僕は、わりと美味しく紅茶を淹れられる自信がある。そして、お茶を淹れるという行為で僕自身も気持ちを落ち着かせたい。
……お茶を飲んだアリッサが、ポロリと涙をこぼした。
冷静になろうと思ったばかりなのに、内心、ひどく動揺する。ああ、もっと気を使って話を進めるんだった。泣かせたくなかったのに。
「……ケーキもあるよ。食べる?」
「うん」
だけどアリッサは黙々とケーキを食べ、紅茶を飲み……やがてその綺麗な金の瞳に強い意志を滲ませて僕を見た。
「ごめんなさい。動揺しちゃって……」
「いや。ボクに配慮が足りなかった」
「ううん。アルは襲撃のあと、ずっとその心配をしてくれていたんでしょう?わたし、何も知らずにのん気にしてて……ほんと、ごめんなさい」
アリッサは、やっぱり凄いなあ。
短い時間でちゃんと前向きになって、その上、こうやって僕にまで気を遣うんだから。
僕ももっともっと、しっかりしないといけない。




