近くて遠い血の絆
王家の保養地で僕とアリッサが襲われるという事件は公にしなかったので……王城へ戻ったら、何気ない顔でいつも通りの生活をすることになった。
だけど、母上はショックが大き過ぎたらしく、少し精神的に不安定になってしまった。そのため、アリッサの母上であるコーデリア様がしばらく“遊びに来た”という形で王城に滞在してくれるようだ。
僕はあまり詳しく知らないのだが、僕が生まれる前や妊娠中、生まれた頃───王城では母上の味方となる者が少なく、コーデリア様がずっと付き添っていてくれたらしい。母上には、これほどまで親身になってくれる友人がいて幸せだと思う。
その後の秋の神事も素知らぬ顔でこなした。
終わってから、大公たちに絡まれぬよう、すっと神官長に寄って何気ない雑談をする。
神官長は少し耳が遠くなっていて、会話には苦労するのだけど……適当に昔のことを聞けば昔話を延々としてくれるので、大公の嫌味を聞くより何十倍もマシだ。
───僕に絡めなかったからだろうか。
今回はザカリーが狙われていた。
「お前は、魔力操作が本当に下手だねェ」
「王族がそんな有り様では、格好がつかんぞ。もっと鍛練せい」
ザカリーが暗い顔で俯いている。
まったく。大公たちだって、大したことないくせに。どうして、子供相手にそんな大人気ない難癖をつけるんだ。
……そのまま知らぬふりでいようと思ったけれど。
“兄弟仲を深めるいい機会かも”と僕は前向きに捉えることにして、大公たちに割って入った。
「僕も魔力操作はまだまだです。来年こそは夏至祭で大きな花火を上げたいと思っているのですが、何かコツはありますか?」
「アルフレッド……」
ムッとソーンウォール大公が苦い顔になった。
いつも歪な花火しか上げられないのだから、コツなんかあるはずはない。
「日々、練習を積み重ねるんだ」
「うむ。練習あるのみ」
バンフォード大公も横で尊大な態度で頷き、2人してそそくさと離れてゆく。
……へえ、まさか、こんな簡単に撃退できるとは!
思わず笑いそうになったら、まったく光のないザカリーの瞳がこちらを真っ直ぐに見ていた。
「……本っ当にオマエはムカつく。どうして、ここにいるんだ」
「え?」
いや、別にありがとうは期待してなかったけど。
そんなに僕はザカリーが腹を立てることをしたんだろうか?
呆然としていたら、さっさとザカリーは向こうへ行ってしまった。
アリッサ。僕はコミュニケーション能力がないみたいだよ……。兄弟仲を深めるのは無理そうだ。
がっくりとしていたら、マーカス兄上と目が合った。
このうえ、兄上からも嫌味を言われたら堪えるなあと思っていたら。
「ザカリーは、アルフレッドに対していつもああなのか?」
と心配そうに聞かれた。
「いえ。……そもそも、ほとんど会話したことがないので……」
「そうか。……そうだな、俺も話した記憶があんまり無いな……。でもあれは無いな。ちょっと、改めるように言っておく」
「ありがとう……ございます……?」
あれ?ザカリーのおかげ(?)で、マーカス兄上と歩み寄りできたかも知れない。
ブクマ2000感謝のSSを本日夕方頃に活動報告へ上げます。
といっても、大したことない内容だし、読まなくても全然本編に影響ありませんので、興味のある方だけどうぞ~。




