悪役令嬢ではなく悪役商人にジョブチェンジ?
……不覚。
王子を脅かすつもりが、私が怖がってしまうなんて。
翌朝、起きたときには王子の姿はなかったけれど、私の手にはまだ王子の温もりが残っているような気がした。
はー、悔しい。
次こそは、王子をなんとかぎゃふん(死語)と言わせなくちゃ。
王城を辞したあと、私はしばらく王都のカールトン邸に滞在することになっていた。
商会のお手伝いをするのだ。
「アリッサお嬢様!お待ちしておりました」
商会に着くなり、従業員がずらりと並んで出迎えてくれる。……毎回思うんだけど、5才の子供にこの出迎えは、ちょっとやり過ぎじゃない?
まずは恒例、お父さまと店長の三人で、店内をチェックして回る。
香辛料の棚で、店長が立ち止まった。
「そういえば、この香辛料のレシピ集はとても人気なんですが……最近はレシピの隅に描いてある猫が可愛いから、レシピだけ全部欲しいという奥様やご令嬢がいらっしゃるんですよ」
ほほう?
これは……新たな商機?
実はレシピの隅に、長靴を履いた猫に似たイラストを入れてもらっている。そしてその猫の横に、レシピの一言アドバイスを書いているのだ。レシピごとに猫のポーズは変えて。
この世界にはキャラクターグッズというものがないので、いずれ可愛いキャラクターを作って売ってみようと思っていた。まずは手始めに、この猫から始めるのもいいかも?カップやソーサーに上手に絵付が出来る職人、いるといいんだけどなー。
ちなみに、レシピはタダでは渡していない。紙は貴重だし、レシピだってこの世界ではかなり価値があるからだ。お貴族樣は、他で知られていない料理を客人に振る舞うことにステータスを感じるらしい。
で、レシピ1枚いくらだと思う?
なんと1万円!!(これ、前世の価値に変換した場合ね。もしかすると、もうちょっと高いくらいかも?)
高過ぎ~~~。
私はせいぜい500円くらいで売るつもりだったのに、お父さまや店長に大反対されて、この値段になった。それだけ価値があるってことらしい。香辛料の販路拡大のつもりが、まさかレシピ単体でも売り物になってしまうとは。
ただ、この店を利用するのは基本的にお貴族樣ばかりなので、有り得ない高額レシピでも、皆、気軽にバンバン買っている。「この棚の端から端まで、全部チョウダイ」て、本当に言っちゃう人もいる世界なのよ……。前世の庶民感覚が色濃く残っている私には、付いていけない買い物風景だわ。
でもさー、前世なら……レシピなんかスーパーでタダで置いてあったじゃない?私が発案したとはいえ、悪どいことをしている気分だわ……悪役令嬢を止めるつもりだったのに、新たに悪徳商人の道へ突き進んでるのかしら?
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もう1つの作品が書き終えられたので、こちらの作品をせっせと書き進めていきたいと思います。