予定通り、悪目立ちしております
パーティー参加に際して、ライアン兄さまがアナベル姉さまをエスコートし、マシューが私のエスコートをしてくれるそうだ。
「……エスコートっているの?」
まだ社交界デビューしてない子供なのに不思議。
そう思って姉さまに聞いたら、溜め息が返ってきた。
「アリッサが心配だからでしょ。お父さま、ホント過保護なんだから。私が付いているからって言ったのに」
「どういう意味?」
「マーカス殿下の婚約者に!ってことで、王国内でまだ婚約してない10才以下の女の子が一同に介するのよ?便乗して探す家だって出てくるでしょう」
「うん?」
「で、アリッサだったら変なのに引っ掛かる可能性があるから、しっかり者のマシューを横に張り付かせておこうってワケ」
ええ?!なんか……納得いかない!
我が家にやってきたマシューも、私に合わせたらしい。黒ベースの衣装だった。ただし紅色は使ってない。代わりに銀色が品良く入っていて、カッコいい。
「すごーい、マシューかっこいい。似合うね」
「……王城のパーティーに参加なんて、僕には荷が重いんですけどね」
誉めたのに、暗い顔で呟やかれてしまった。
マシューは子爵家なので、別に王城のパーティー参加はおかしくないと思うんだけど。
「ダンス、苦手?」
「いいえ、踊れますよ。でも、お嬢様とは踊りませんから。ファーストダンスは、将来の婚約者のために大事に取っておいてください」
「え~、たかがダンスじゃん」
ライアン兄さまと何度も踊ってるし。なんならリックとテッドとも踊ってるし。
「はあ……。お嬢様がそんなだから、旦那様が心配して僕を付けるんです。……お嬢様、いいですか。ぜっっったいに、僕かアナベル様から離れないでくださいね?」
どうして誰も彼も私をトラブルメーカー扱いするの!
ホールに入ったら、まあ、予測通りだけど私と姉さまはよく目立った。
ついでにマシューも目立っている。……そうか。もしかして私の婚約者?!って勘違いされてるのかも。
「マシュー、ごめん。婚約者って思われてるかも」
「旦那様の狙いはそれだから覚悟をしています」
「……そ、そうなんだ」
分かってて受けてくれたんだ。
ん?……マシューなら、私と本気で婚約することはない。前世のマンガでよくあった“契約婚”みたいなこと、マシューと出来ないかな?
「お嬢様。僕はお嬢様の弾除けにはなりませんからね?吹けば飛ぶような子爵家に、火龍家のお嬢様の偽婚約者は無理です」
あ、先に釘を差されちゃった。
ディに会ったら、衣装を絶賛された。
「いやですわ、どうしてわたくしも誘ってくださらなかったの?!わたくしもアリッサとアナベル様に揃えたかった~!ね、ね、ライアン様。わたくしと結婚しません?」
「…………クローディア嬢。申し訳ないけど、これ以上、妹は要らない……」
その“妹”の上に“面倒な”が付いてそうだけど、私はもう一人姉が増えるのは歓迎~。
───お父さまたち四龍も控える段上のマーカス殿下は、私とアナベル姉さまが挨拶に行くと面白そうに目をきらめかせた。
その背後で、シンシアさまが戦慄いている。
ふふふ、狙い通り!
もっとも、少し離れたところにいるアルには呆れた顔をされていた。
「マーカス殿下。この佳き日が迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます」
アナベル姉さまが優雅にお祝いを述べる。私も同じように言って、二人で綺麗にカーテシーをした。
殿下は他のご令嬢方には「ありがとう」しか返してなかったけど、私たち二人はよほど興味を引かれたんだろう。「揃いで、見事な衣装だな」と誉めて(?)くれた。アナベル姉さまが好戦的な笑みを浮かべる。
「似合いますでしょう?」
「ああ。……まさに火龍公爵家のご令嬢に相応しい。近寄ると火傷をしそうだ」
「ええ、そうですね。気を付けてくださいませ」
シンシアさまがプルプルと震え、マーカス殿下はニヤッと笑い、私たちは挨拶を終えた。
「悪目立ちしすぎだよぉ」
ライアン兄さまの小さな嘆きは、アナベル姉さまの肘打ちで消されていたけどね。
王城パーティー編開始。
事件が起こるので、来週くらいまで続きます。




