グレイシー姉さまの成人パーティー
今日はグレイシー姉さまの16歳───成人の誕生日パーティーが行われる。
ちなみにグレイシー姉さまの誕生日は、本当は秋の収穫祭前だ。だけど、その時期はカールトン商会の新店舗開店と重なっているし、マーカス殿下の10歳の誕生日パーティーも控えていて慌ただしい(ちなみに、私とアナベル姉さまはやはり招待されているようだ)。
お父さまや多くの貴族はマーカス殿下のパーティーに出席が決まっており、日程調整が煩雑になるため、グレイシー姉さまの誕生日パーティーは少々前倒しで開くことになったようだ。まあ、1ヶ月ほど前後することはよくある話みたいだけど。
なお、オリバー兄さまのときとは違って、そんなに大々的にはやらないからパーティーに来るのは親しい人がほとんどとのこと。
そうそう!
オリバー兄さまのときは、身内女性が成人の日用マントに刺繍しなくちゃいけなくて大変だったんだけど、女性の場合は、自分で成人の日に羽織るショールに刺繍するんだって。
男の人は刺繍してもらうのに……女の人は自分でしなきゃいけないって、何それ最悪~。
あの面積を一人で刺繍って、今から成人の日が怖いわ……。
あ、一応、端っこの飾り模様は、お祝いの気持ちを込めて身内女性が刺繍するんだけどね。ちょこっとだから、そんなに大変ではなかったのはウレシイ。
「ここをこうして……こう上げればいいですか、アリッサ様?」
「うん、そう!それで、最後にこの髪飾りを差してね」
「はい」
今日は、朝から姉さまの支度に私も加わっている。忙しいけれど、楽しい。
成人のとき、女性は髪をアップにする決まりがあるそうだ。普通はシンプルな夜会巻きのような髪型に、真珠や宝石の髪飾りを付けるらしいけれど……私はリボンを編み込む三つ編みを提案した。
そういうやり方は今までなかったらしく、侍女たちに教えたら大盛り上がり。全侍女にやり方を教える羽目にもなった。今後、アナベル姉さまも私も、それで結ってもらえそうだ。
そして、グレイシー姉さまには髪留めにプラスして、かんざしを元にした髪飾りも作ってプレゼントした。揺れるように、棒の先に宝石を連ねたのだ。
「ステキですねぇ。グレイシーさまの髪の美しさを引き立てていますわ。それにこの飾り、話題になりそうですよ!髪に挿すだなんて、面白いこと」
侍女たちの評価は上々。姉さまもとてもうれしそうだ。
うん、頑張った甲斐があった!
オリバー兄さまの成人パーティーのときは来れなかった叔父さまが今回は来ていて、いろいろと楽しい話を聞けた。
それから姉さまの婚約者、ハロルド・ランシングさまともお話をする。
今まで軽く挨拶をしたことはあったけれど、きちんとお話をするのは初めてだ。
姉さまより二つ年上で、現在、従騎士。来年には正騎士になるらしい。そつのない話し方をする人だなーという印象がある。
お顔は、うーん……まあ、普通……かな?凛々しい眉でキリッとした感じで……前世だとカッコいい方には入るの……かも。
なにせ、この世界はキラキラしい人が多いからねー。それなりに男前でも普通って感じるようになった自分が怖いよ……。
ちなみに体格はすっと細身。正直、騎士としては一見、強そうに見えない。
グレイシー姉さまは美人で優しくて自慢の姉さまだ。ハロルドさま、悪い人じゃないけど、飛び抜けた部分がないから……姉さまに相応しいって気がしないのよねー。
「もう!アリッサは強さとか、すぐお祖父さまを基準にするでしょ。ハリーは学院の剣術大会で何度も優勝しているし、従騎士の中でも一番強いのよ?」
グレイシー姉さまがちょん!と私の鼻の頭をつついて非難してきた。
……あら?なんだかグレイシー姉さまがカワイイ。
「いや、私の腕がまだまだなのは事実だから。せめてオーガスト様から3本に1本はとれるようになりたいと思っているよ」
「ハリー。お祖父さまみたいにならなくていいわ。私、あまり筋肉ムキムキは好きじゃないもの」
「ははは、そんなことを言ったらオーガスト様が落ち込むよ?」
ふぅん……?
グレイシー姉さま、政略的観点で婚約者を選んだって言ってたけど、そうでもないんじゃ??
これはどう見ても姉さまの方がハロルドさま好き好き……?
ちょっとビックリしていたら。あとでアナベル姉さまが教えてくれたのだけど……学院時代にハロルドさまの方から何度も熱烈アプローチがあったらしい。
特に有名なのが剣術大会。
優勝を、たくさんの観客の前で姉さまに捧げたそうだ。
やだ~、もう、何それ。
そんな恋愛小説的展開、ホントにあるの?!
み、見てみたかった……!




