低カロリーで美味しいもの、至急開発が必要?!
アルダー・ル雑貨店がオープンし、大変な賑わいらしい。あまりの人気ぶりにオリバー兄さまとお父さまは連日、朝から晩まで店の対応に追われているとか。
しかし私は、王都ではなくカールトン領でいつも通りののんびりした日常を送っていた。
「お嬢ってあんまり欲がないな」
「そう?わりと欲まみれかなって思ってるんだけど」
「注目されたい!ってゆー欲のほう。名誉欲?」
「だってそれ、なんにも役に立たないじゃん。お腹がふくれるワケでもないし、よく知らない人に声を掛けられるのも面倒だし」
「そりゃそうだけどさー」
「お、おじょ…さま……も、もうちょっと……ゆ…っくり……」
背後からの切れ切れの声に、私とテッドは振り返った。
よたよたと私たちの後ろを走るのは、シェフのジョンだ。
「もうあと少しだから。がんばれ、ジョン!」
「む……むり……です……」
「できる!」
ここ半年ほどでジョンのサイズが一つどころか二つ、三つ上がった感じなので、私と一緒に朝ジョギングするのがこの頃の日課だ。
私がいない日は、護衛だの馬番だの、誰かに代わりをお願いしている。みな、ジョンの健康のためだと言えば、快く協力してくれるので有り難い。
やっぱ、ジョンの料理は美味しいもんね。健康で長生きして欲しいよねえ。
そんなワケで心を鬼にしてジョンを走らせているのだけど。今にもジョンは倒れそうになっていた。
仕方ない、そろそろ燃料を投下するか。
「ジョン!今日はね、豆腐を作るよー。しっかりお腹を空かせておこう!」
「は、はい……トーフ……ト、トーフのために……がんばり……ます……!」
ごめん、ジョン。
豆腐は、あなたのダイエット目的よ。好きな揚げ物系じゃないけど、受け入れてね。
そうそう。
これまたジョンの体重増加の一因となったマカロンの方は、試行錯誤の末、いい感じに完成した。
アナベル姉さまに食べてもらったら、もちろん大喜びされた。
ただ、これを商会の方で提供するのは、来年以降になりそうだ。今でも混雑しているのに、これ以上の来客数増加は従業員が持たないらしい。
「トーフは豆を使うんですか?」
ジョギング後、水浴びをして着替えてから厨房へ行くと、すでに準備万端のジョンが待っていた。
んん?あの死にそうな顔はどこへ行った?実はもっと走れるんじゃないの?
───大豆に似た豆は、昨日から水につけて柔らかくしている。
前世、学校で一回だけ授業で豆腐を作った。なんとなーく覚えているのを引っ張り出す……。
「とりあえず細かく砕いて、出来たのを鍋で火にかけるでしょ。で、浮いてくる泡は取り除いて……濾す。それをもう一回、火にかけて……湯気がたくさん出てくるくらいになったら、火を止めてにがりを入れて混ぜる……」
大体、こんな感じだったと思う。
あのときに食べた出来立ての豆腐、結構美味しかったな~。醤油がないのは、ほんと、残念。
ちなみに、にがりもちゃんと作っている。海水を煮詰めて濾すだけだ。
中途半端であやふやなお菓子の知識と違って、一度でも自分で作ったことがあるって、やはり強いね。
その強みがしっかり発揮され、一回目でちゃんと出来上がった。
よしよし。
完成品を、オリーブ油と塩をかけて食べる。
お?
美味し~い!洋風冷や奴もなかなかいいんじゃない?
…………でも、予想通り、ジョンには物足りなかったようだ。
この豆腐を使って麻婆豆腐にしたら、ジョンも満足してくれるかしらん?あ、でも麻婆豆腐って、味噌だか醤だかが要るんだっけ?参ったなあ……。




