夜の王城はシャレにならないくらい怖い
扉をそっとノックする。寝てたら、さすがに起こしてまで実行することじゃないしね。
しばらく待ったけど、反応はない。うーむ、王子、寝つきが良かったか。残念。
では、一人の散歩に戻ろうと踵を返したら、扉が開いた。
「アリッサ嬢?!」
ぎょっとしたように王子が小さく叫ぶ。
私は、夜の突然の訪問を詫びる風に、視線を少し下げて「こんな時間にごめんなさい」と殊勝な声を出した。
「知らないばしょで、一人っきりでは ねむれなくて。でんか、ちょっとだけ、いっしょに さんぽしませんか」
「散歩」
「夜のお城は、昼間と ちがって、あやしい みりょくがあります」
「妖しい魅力……」
何故だか王子がオウムになってるぞ?
もじもじしながら、王子の返答を待っていると、王子は大きな息を吐いた。
「分かりました。一緒に夜の城を探検しましょう。危ないので、手を繋ぎましょうね」
「はい!」
ふふふ、手を繋ぎましょうだって。王子、やはり夜の城は怖いんだ……?
ところが。
「あの尖塔は、百年前に政略結婚を嫌がった姫が飛び降り自殺した所です。今でも、自分が本当に死んだと分からず、姫が何度も飛び降りるらしいです」
とか、
「この回廊では、七十年前に、王位簒奪を狙った王子が企みがばれて斬られた場所です。夜な夜な、我こそ真の王なり……と膓がはみ出た姿で現れるそうですよ」
とか、めっちゃ怖い話をばんばんしてくる。しかも、実際にあった出来事って!
それ、本気で怖いやつじゃん!
さすがに5つめか6つめで、私は震えて前へ進めなくなってしまった。だって、この先は、先祖代々の肖像画が飾られた姿絵の間だとか。月明かりの中、壁一面の無表情な歴代王族の視線を浴びるって、ムリムリ~~~!
たぶん、涙目になっていただろう。
王子は、優しく私の頭を撫でた。
「怖がらせてしまいましたね。この城は古いので、こういう話が呆れるほどあるんですよ。でも、貴女に聞かせるべきじゃなかったな」
「だ、だだだ、だいじょうぶです!こ、こわくなんか、ありません!ねむくなっただけです!!」
王子の余裕が悔しくて、全力で否定する。
王子は、天使のような微笑みを浮かべて頷いた。
「そうですね。では、部屋に戻りましょうか」
部屋に戻り、ベッドにもぐり込んだ。
王子が丁寧に掛け布団を整えてくれる。
「では、おやすみなさい」
そう言って、出て行こうとする王子の手を……私は思わず掴んでしまった。
「アリッサ嬢?」
「少しだけ……ここに、いてくれませんか」
情けないけれど、今、一人になるのは怖い。
王子は、綺麗な青い瞳を丸く見開いた。そして破顔し、空いている方の手で私の頭をまた優しく撫でた。
「では、貴女が眠るまでこうしてそばにいます。大丈夫ですよ、何も恐くありません」
「ごめんなさい……ありがとう……」
ほっと息をもらし、私は王子の手を握りしめたまま、目をつむった。
ようやく王子の逆襲(?)です。
どうでもいい話ですが、私の夢は、古びた古城で夜に蝋燭を持って城内探索をすることです。
なんだかロマンを感じませんか……。出来れば、ぜひ、白いネグリジェを着てやってみたい(笑)。
でもたぶん、アリッサみたいにブルってしまうんだろうなぁ。超怖がりだし。