一番大きくて綺麗な花火
「そういえば、カールトン商会は移転して大きくなりましたのね。この間、お父様とエリオットの3人で行きましたのよ」
ディの話題に、アナベル姉さまが満面の笑みを浮かべる。
「まあ、ありがとうございます」
「もちろん、ドーナツは頂きましたわ!だけど予想外にいろんなお味があって、もう、どれを食べようか本当に悩んだのよ……」
「うふふ、ドーナツは季節ごとに味を変える予定をしていて……クローディア様、たくさん通ってちょうだいね?」
「まあ!季節限定で客を釣るなんて……なんて商売上手なの~~」
私と姉さまは顔を見合わせてニヤリと笑った。
似たような悲鳴は、何度か聞いたことがある。策が上手くはまって、何よりだ。
そんな私たちをディが恨めしそうに見た。
「……もう。ブライト王国最強姉妹じゃない、あなた達。これからの王都は、きっとカールトン家に支配されるんだわ」
「やだ、ディ。カールトン家はみなさまに食の幸せを届けるだけよ?支配なんてとんでもない」
「そうそう。私たちは、手軽で身近な幸せを届けているだけよね~」
「どうかしら?今度、雑貨店も開くんでしょう?きっと、そっちも悪どい商売をするのよ」
ディがいたずらめいた目でちらっと睨む。私はわざとらしく首をふるふる振った。
「ひどいわ、ディ。売り出すのは便利で作業効率が上がる商品ばかり。感謝されこそすれ、悪どいだなんて……」
「う~わ~、やっぱり他にはない素晴らしい商品を並べるつもりじゃない!もう、アリッサ。そういうのは、親友であるわたくしに、こっそり先に教えてくれなくては!買い占めができないじゃない。あと、味見のお手伝いはいつでも仰って」
真面目な顔で言うディに、私はつい吹き出した。
そろそろ、日が暮れてきた。テラスへ案内される。
「そういえば、もうすぐマーカス殿下の10才の誕生日パーティーですわね。もちろん、アリッサは招待されてますわよね?」
「……それ、初耳。でも、ディは招待されているのね?」
この間、私はマーカス殿下にきっぱり断ったから、招待は来ないと思うんだけど。
それを言うと、ディもなんだけど。
「出ましょうよぉ、アリッサ」
「婚約者にはなりませんってきちんとお断りしたし。もう面倒なことに巻き込まれたくないからイヤ」
「あら?2人っきりのとき、言ったんですの?」
「え?アリッサってばマーカス殿下と2人っきりになったの?!」
「そうですのよ、アナベル様。それでアルフレッド殿下の顔色が変わりまして」
「もう、いやぁね、アリッサ。男ゴコロを弄びすぎじゃない?」
「ちがーう!」
だからどうして、そんな流れになるの。
はあ、早く無難な婚約者を見つけた方がいいのかしら。ちょうどいい人よ、来~い!
でも、同年代じゃ、トキめかないんだもーん!
辺りがすっかり暗くなり、開始の合図の鐘が響く。
私はお喋りを止めて、すぐに空を見上げた。
「アリッサ?」
「姉さま、待って。今日の一番最初の花火は、アルが上げるって言ってたから」
今年は、大きな花火を一番に上げるとお茶会の帰りにアルが教えてくれた。どんな花火なのか……見逃さないようにしないとね!
───スッと光の筋が一直線に空へ伸びる。
一瞬の後、真っ赤な大輪の花が夜空に開く。中心部分は美しい金色。
……スゴい!
本当に大きい。その花火一つだけで、視界いっぱいになりそう。
続いて、色とりどりの花火が上がったけれど……ああ、アルの上げた花火にはどれも及ばない。
うわ~、今度会ったとき、絶賛しなくちゃ。花火は難しいって言ってたのに、アルってばあんなに綺麗で大きな花火を上げたんだもの!




