贈り物交換会?
やっぱり1話では収まらなかった~…。
そんなこんなで夏至祭当日。
私とアナベル姉さまは、夏物のさっぱり爽やかな白の揃いの衣装を着て、馬車に乗っていた。
ちなみに本日の護衛は、メアリーとお父さま専属の護衛ロドニーだ。2人とも一緒に馬車に乗っている。
あと御者もたぶん、本職は護衛の人じゃないかしら?火龍家の紋はきちんと隠しているし、お父さま、用心しすぎ……。
「ようこそ、アナベル様、アリッサ!」
ディが両手を広げて歓迎してくれる。その横で、幼い男の子も「よーこしょ!……ベルしゃ!アリー!」と真似をして手を広げていた。
「え!……ナイジェルさま?か、かわいい~~~!」
去年はあまり話せなかったのに、もう、こうやって歩いて、お話できるのね!
「ナイ、かわいいちがう!かっこいい、なの!」
「なるほど、騎士の装いですね、ナイジェルさま。カッコいいです」
腰にぶら下げたおもちゃの剣を自慢気に見せるので、私は急いで言い直した。そして、丁寧にカーテシーをする。
「カッコいい騎士のナイジェルさま。エスコートしていただけますか?」
「うむ、えしゅこーとする」
「も、悶え死ぬ……」
アナベル姉さまが後ろで小さく呟いた。
うん、この天使、可愛すぎるぅ。
来客室に案内され、私はさっそくリーバルのお土産を取り出す。
「まあ、ステキですわ!」
実はナイジェルさまの分を買い忘れていたのだけど……ルーラは色が何種類もあったせいでたくさん買っていたのだ。助かった……。それに加えて、ナイジェルさまには私用に購入した小さな帆船の置き物も渡す。
ナイジェルさまは飛び上がって喜んでくれた。
うう、次からは真っ先にナイジェルさまのお土産を買うからね~。
そして、本日姉妹揃ってお世話になるので、水龍公爵家へは───
「これは、魚ですか?」
奥さまのシェリーさまが箱を覗き込んで質問された。
「はい。一夜干ししたものを、凍らせてあります。そのまま焼いて何もつけずに食べます」
これ、リーバルでとても美味しかったのだ。肉厚でほど良く脂が乗っている滅多に取れない高級魚クラル。
切り身にして丁寧に小骨を取り、一夜干ししたものを瞬間冷凍している。凍らせて輸送するのは一般的ではないため、その手間賃だけでビックリするようなお値段の一品だ。
シェリーさまはチラリと夫を見やった。
ルパート閣下が小さく笑う。
「アリッサ嬢のお勧めするものは、まずは食べてみようと決めている。……こちら、今夜の晩餐に加わえさせてもらっても良いか?」
「どうぞ!」
別にそんなに魚好きでもない私が本当に美味しい!って思った品なので。ぜひぜひ、閣下には食べて欲しい。
途端にシェリーさまが驚愕の表情になる。その後ろで執事さんも固まっている。
ん?
「魚……ですが、よろしいのですか?」
執事さんが確認するので、なるほどと事情を察した。
閣下、魚が(も?)嫌いなのね。
魚以外に南方産の果実酒なども渡して。
今度はディから素敵なレースのショールと帽子をもらった。
「去年、キューラというとても素晴らしい絹織物をいただいたでしょう?うちにも、自慢のレースがありますのよ。アイリーシェという特別な糸で……」
さらっとショールを広げる。
「これ、陽の光をあまり通しませんの。日焼けする夏には重宝する品ですわ」
「まあ、すごいわ。クローディア様のその透明な肌は、アイリーシェで守られているのね」
姉さまが目を見張る。
私も恐る恐るショールに触れてみた。柔らかい手触り。軽い。
「こんなに編み目に隙間があるのに、効果があるなんて、不思議でしょう?しかも風が通るから、暑くないですし。ぜひ、お使いになって」
「ありがとう、ディ!」
「ふふふ」
これ、たぶん、キューラに匹敵する高価なヤツだ。
いいのかしら、こんな高いものをいただいてしまって。
ちょっと恐縮しながらショールを撫でていたら、エリオットがおずおずと鉢植えを差し出してきた。
「その……こんなもので申し訳ないが、お二人に……」
「あ、エリオットが育てたやつ?」
「ああ。もう少ししたら、どちらも花が咲く。暑い陽射しには強くないので、部屋の窓に近い辺りに置いてくれると助かる」
私と姉さまに一つずつ。種類は違うようだ。
エリオットが大切に植物を育てているのはよく知っているので、大事な鉢植えをプレゼントしてもらって嬉しい。一体、どんな花が咲くんだろう?楽しみだなぁ。
まだ固い蕾を見ながら花の想像をしていたら、エリオットがそっと話しかけてきた。
「アリッサのは……新種なんだ。花が上手く咲いたら、名前を考えて欲しい」
「え?な、名前?わたし、センスないよ?」
「私はもっとセンスがないから」
ひぇ~、責任重大!この間、雑貨店の店名を考えるのも大変だったのに……!
シェリー:「やっぱり、アリッサ様にはうちに嫁いできてきてもらった方が良いかも……」
執事:「まったくです、奥様。これまでどれほど努力しても難しかった旦那様の偏食がなおる日も近いですな!」