今年の夏至祭はアナベル姉さまと一緒に…
去年の夏至祭は水龍公爵家でお泊まりしてとても楽しかった。今年もディからお誘いがあり、アナベル姉さまと一緒にどうぞ!と言われた。
うふふ。水龍公爵家で夏至祭!もちろん、行かなくちゃ。
だけど、お父さまはいつも通り“駄目”とにべもない。しかし今回は、アナベル姉さまも誘われている。アナベル姉さまの“絶対に行きたい”口撃は激しく……さすがのお父さまも早々に首を縦に振らざるを得なかった。
すごい。……今後は、どんな計画もアナベル姉さまを巻き込むと話が早いかも知れない。
ただ、お泊まりは無しだ。道が混みあって大変だけど、泊まらずに帰ってくるようにと約束させられた。
何故なら。
「アリッサ。この間、アルフレッド殿下を大笑いさせただろう?もうこれ以上、王都で噂になるな」
だって。
意味が分からない。
「アルを大笑いさせたらダメなんですか?」
「殿下が王城で声を上げて笑った姿など、誰も見たことがなかったからな。今や王城の馬番や庭師にまで話題になっている」
「うんうん、学院でもその話、すっかり広まってるよ。マーカス殿下にアルフレッド殿下、そしてエリオット様。アリッサ魔性の女伝説、すごいんだから。モテる女は辛いねぇ」
「アナベル姉さま、それ本当?!」
魔性の女って!6才の女児にそれはナイよ……。
ディとエリオットはよく揃いの衣装を着ているので、私とアナベル姉さまも衣装を揃えて行こうという話になった。2人でどの服にするかの相談を始める。
姉さまの部屋で相談しながら、ふと、私は気になったことを聞いた。
「そういえば姉さま。姉さまってマーカス殿下と同学年だったんですね」
「そうよ。クラスも同じよ。別に話したことはないけど」
「どうして姉さまにはマーカス殿下と婚約の話はないんですか?」
シンシア様だって、お母さまと王妃さまが“アリッサと第二王子を婚約させる!”と昔から目論んでいたことを知っているだろうに。私でなくアナベル姉さまを狙わない理由が分からない。
「あ、それはね。6才のときに王城での茶会に参加したんだけど……」
マーカス殿下の婚約者探しのために、当時、目ぼしい高位貴族の女子はほぼ招かれたらしい。そこで、ディがエリオットを超えるような男以外、興味ないわ~と高笑いして場が騒然となったのは有名な話。
そして、その裏でアナベル姉さまも───
「庭園での茶会だったからね。たまたま、大きな蜂が飛んできたのよ。女の子たちが悲鳴をあげて逃げるのは分かるわ。だけど、マーカス殿下も悲鳴をあげてテーブルに隠れようとしたものだから。つい、“余計なことをしなければ蜜を集めている蜂はわざわざ襲ってこないわ。悲鳴をあげて逃げるなんてカッコ悪い”って言っちゃったの」
「マーカス殿下本人に?」
「そ。で、それをシンシア様が後ろで聞いてて、“あの生意気なコーデリアそっくり!貴方みたいな野蛮な娘は、王城より野山の方がお似合いね!”と怒られたワケ」
なるほど~。私はアルにカエルを渡したけど、姉さまもナイスなことしてたのね。
「ま、シンシア様は、学生時代は露骨にお父さまに色目使ってたそうだから。お母さまと同じ色合いの私は、元々、気に食わなかったんでしょ。反対にアリッサはお父さまと同じだもの。目を付けられるとしつこいかもねぇ」
ふえっ?!シンシア様ってお父さまのこと好きだったの?!
「あ、なに、その顔。うちのお父さま、カッコいいじゃん。学生時代は学年で一番モテてたって話よ?」
「……う、うん」
「もう。アリッサってば、お祖父さまとお兄さまたちばっかりで、お父さまの扱いホント低いんだから!お父さまだってアリッサ大好きなのに、相手にしてもらえなくて地味~に傷付いているのよ」
ご、ごめんなさい、お父さま。
そういえば、前に馬車で私を膝に乗せたとき、すごくご機嫌だったなぁ。あれ、私は嫌がらせだと思ってたけど、本当に嬉しかったのかしら。
「火龍家はストレートというか、直情径行な人間が多いなか、お父さまはちょっと分かりにくいから仕方ないのかしら……」
「姉さまはお父さまのこと、よく分かってるんですね」
「腹黒さが似てるからじゃない?」
ふふふと笑うアナベル姉さま。自分で腹黒いと言い切る姉さまはホント、カッコいい。
「お父さまが腹黒いってことは姉さまも認めているんですね」
「その腹黒さがお父さまの魅力の一つでしょ?アリッサも男を見る目がまだまだね~」
えーと……姉さまが将来、どんな相手と結婚するか、めちゃくちゃ気になってきました……。




