そろそろ雑貨店が新規オープンするよ~
夏至祭のあとに、とうとうカールトン商会の雑貨店がオープンする。
カールトン商会といえば世間的には輸入食料品というイメージなので、雑貨店は違う名前を!という話になり、それがこのところオリバー兄さまと私の頭を一番悩ませている問題だ。
今日も2人でああでもない、こうでもないと話していたら、ブルーノとともに執事のハドリーが入ってきた。
「アリッサお嬢様!これはとても便利です!」
「良かった。ハドリーが誉めてくれるなら安心ね」
「ああ、お嬢様が……あと30年早く生まれておられれば……私はどれほど楽だったでしょう……!」
もう、大袈裟だなあ。
ハドリーが手に握り締めているのは、ホッチキスだ。芸がないけど“紙綴じ器”という商品名を付けている。この他に穴あけパンチ(穴あけ器)、リングファイル(書類綴じ)、インデックス用紙(見出し用紙)などなど、この数か月で事務仕事に役立ちそうな文具をたくさん作った(正しくは作ってもらった)。
ハドリーには実際に仕事で使用してもらい、感想を教えてもらおうとモニターをお願いしたのだけど……新商品を渡すたびに私への評価が爆上がり中だ。領地関係の書類管理がかなり楽になったらしい。
「紙に小さい点の穴がずらっと開いているだけで、メモが簡単に綺麗に切り離せたり、もう、お嬢様の商品はどれもこれも素晴らしいです!」
「ありがとう」
「雑貨店が開いたら、王国で事務革命が起こりますね。今年は記念の年になりますよ」
起こるかなあ?
私としては、前の世界では当たり前にあった文房具ばかりなので、感動は薄い。
それよりも、あと、付箋とシールを作りたい。だけど、弱めの糊とか剥離紙がうまく作れず、手間取っている。インデックス用紙より、インデックスのシールの方が使いやすいかと思うんだけど。
ま、一気に全部はムリかなあ。
クリアファイルも便利でいいんだけど、難しいしね。
「それで、店の名前は決まりました?」
ブルーノが期待に満ちた目で兄さまと私を見る。それを聞きに来たらしい。
兄さまは溜め息をついた。
「あまり奇をてらっても良くないし、いい名前が思い付かなくてね……」
「そうですか……」
「もう、兄さま担当のお店なんだから、オリバー商会じゃダメですか?」
「ほとんどの商品がアリッサ考案だから駄目」
うう~。
かといって、私の名前は表に出さないのがお父さまの方針だ。私も出して欲しくはない。
えーと、文具、書類、紙、ペン……文字。あ、文字!
「じゃ、文字をこの世界にもたらしたアルダー神からとって、“アルダー・ル”ってどうですか?ルは古語で子供って意味だったと思うんですけど」
「アルダー・ル雑貨店?いや、この場合は文具店の方がいいかな?」
「アルダー・ル雑貨店で構わないのではないですか?貴族の商会は家名の店名が多いので、目新しくていいですね」
よ、良かった。これで決まりそう。
「あ、ブルーノ。お店のマークは考えてあるの。これ、使ってね」
火を吐く竜が本とペンを持つ図だ。本より書類を持たせたかったけど、図案化したときに本の方が分かりやすかったのよね。
「ほう!火を吐く竜ですか」
「カールトンの名前がない代わりに、店名の下か横にこれを付けようと思って。火龍家だとすぐ分かりそうでしょ?紙を取り扱う店の紋章にしては、物騒な図だけど」
「ふふ、確かにそうですね。でも、良いと思います。では、これで看板屋に発注します」
はあ、これで大体、片付いたぁ!
私は安心して大きな伸びをしたが、兄さまの方は急いで立ち上がった。
「その前に父上に店の名について、これでいいか伺ってくるよ」
「いえ、必要ありません!」
ブルーノが手を上げて兄さまを止めた。
「オリバー様に任せると仰った時点で、どのような件もマクシミリアン様の確認は必要ありません」
「え?じゃあ、店内の配置や内装の件は……」
「オリバー様とアリッサ様が決めたものを、そのまま実行しております。マクシミリアン様は、一切、進行をご存知ありません」
知らなかった……。
私と兄さまは顔を見合わせた。てっきり、ブルーノに渡せばお父さまが目を通すものとばかり思っていたのだ。
「マクシミリアン様は、開店日を非常に楽しみにしておられますよ!私も全力を尽くしますので、あと少し、頑張りましょう!」
うわ~、なんか肩がずしっと重くなった気がする~!
気が付けば、総合ptが7000ptを突破!
ブクマや評価、ありがとうございます~。
こんなに長くて、飽きたりしません?と心配になったり。
一方で、私も飽きずによく書けるものだと内心で感心していたり……。




