お茶会は楽しく笑い転げて
本日は少し文量多めです
今日は王妃さまは参加せず、アルと2人っきりのお茶会らしい。
「……本当は、アリッサと公式のお茶会はしたくなかったんだ。要らぬ詮索が増えるだけだし」
私のために椅子を引きながら、アルが溜め息混じりに言う。
お茶会の会場は、サンルームだ。
風を通すためにあちこち開け放たれており、周囲から丸見えである。……王妃さまの思惑が透けて見える。私とアルのお茶会を周りにわざと見せているのだ。
「まあ、でも、私は噂のバンフォード大公を初めて拝見できたので、ちょっとは収穫あったかも」
あのデブ大公め!とお父さまが毒づいていたことがあるので、気になっていた人だ。
「たぷたぷ大公が見たかったんですか?」
横から口を挟んできたのはウィリアムだ。
「たぷたぷ大公?」
「殿下の命名です」
「ぷぷっ!……でもあれ、たぷたぷ出来ないくらい肉がパンパンじゃないですか?もはや肉塊……」
「うーわー、肉塊大公って言うとかなり怖そうですね~」
「私は怖かったですよー」
アルが吹き出す。
「止めてくれ!今度会ったとき、吹き出さずに我慢できる自信がない……!」
「ダメダメ。笑ったら呪われるからね~。肉塊に押し潰されるのだ~」
「アリッサ!」
アハハとお腹を抱えてアルは笑いだしてしまった。
アルって、意外と笑い上戸なんだよね。ツボに入ると止まらない。
調子に乗ってウィリアムと2人で「アルフレッド~、何故笑うのだ~」「ワシはたぷたぷではなぁい!」とバンフォード大公の声真似をする。
「や、やめ……お、おなかが…………っ!」
うーん、まさか、こんなに大ウケするとは。
帰りにお父さまにもやってみよう。腹筋よじれたお父さまも見てみたい。
さて、笑いが一段落してから、アルにリーバルのお土産を渡す。
波音が聞こえる巻き貝のルーラ。白砂とカラフルな二枚貝や珊瑚が詰まっているガラス玉。同じものは、ディとエリオットにも送る予定だ。
それと……
「こっちは誕生日プレゼント!」
帝国産遠眼鏡!
こっちの世界では最新式だろうけど、前世の記憶がある私にとってはレトロ可愛いアイテム。一目惚れだ。
「誕生日なんて、気にしなくていいのに!」
「でも、これ、すっごく気に入っちゃって。アル、興味ない?バートお勧めの最新式なんだけど」
「バート?」
遠眼鏡を覗き込みながら、アルが尋ねる口調になる。
「あ、リーバルの統領なの。お祖父さまと一騎打ちしたこともある強い人なんだって。リーバルの街をいっぱい案内してくれてね、すっごく楽しかった。今度はバートの船にも乗ってみたいなぁって思ってる」
ニコニコと説明したら、アルは一瞬固まり……やがて、ふーっと長い息を吐き出した。
遠眼鏡をテーブルに置き、私を見つめる。
「前から一度、聞いてみたかったんだ。……アリッサって年上好き?」
「??」
いきなり、何?
「だって同年代の人間より、年配の人と打ち解けるのが圧倒的に早くない?最近は店頭に立ってないみたいだけど、カールトン商会でアリッサファンになった貴族は多いし、水龍公爵とも笑顔で挨拶する間柄だし……」
いや、それは違うと思う。
同年代は婚約とか面倒なことが絡むから、つい最初に壁を作っちゃうだけで。
でも……今、カッコいいと思う人は誰?と聞かれたら、バートは一番で上げるかも。そしてお祖父さま。次点でルパート閣下……?
やだ、私、別にジジ専やオジ専じゃない~。
うーん、うーん……あ、そうか、私の周りに20代のカッコいい人がいないのよ!これ、大きい問題じゃん。中身大人の私がクラッとくる、妙齢の男性がいないんだもの!
……ウィリアムは20才前後かしら?ただ、申し訳ないけどウィリアムは違うんだなぁ。
「別に年配の人が好みってわけじゃなくって……えーと、大人の包容力がある人が、好きとか……かな?」
「なるほど。包容力……」
「いやぁ、お嬢様は単に甘やかしてくれる人が好きなだけじゃないですか?」
失礼なことを言ってきたのはリックだ。
じろっと睨んだら、にやっと悪びれなく笑った。
もう!後でガイに厳し~い訓練を課すよう、言ってやるぅ。
「ちなみに、アルはどういう人が好きなの?っていうか、婚約しないの?マーカス殿下がまだだから?」
この際、ついでだから私も気になってる件を聞いちゃおう。
「え?───うん、婚約は……そうだね、まだ無理かな。兄上がまだだし」
「好きな子は?」
「………………いるよ」
「いるの?!」
視線を逸らして赤くなって答えたアルに、私はつい、大きな声を出してしまった。
え。
いるんだ……。
なんだろ、ちょっとモヤッとする。これは決して、“アルはもしかすると私が好きかも?”と思っていたからではない。そう、決して。精神年齢大人な私に、まだ好きな人はいないのに、アルにはいることが悔しいだけだ。
「……どんな子?」
さすがに誰?とは聞きにくく、遠回しに探ってみる。答えてくれないかな?
だけど、アルは真剣な目になって私を真っ直ぐに見た。
「世界中の誰よりも魅力的で可愛い子」
「そうなんだ……」
「発想が豊かで行動力があって、目が離せないし」
「ふぅん」
……だから、アルは私との婚約話を進めないんだね。
私が納得して頷いていたら、アルはもどかしそうな顔になった。もっと詳しく言いたいけど、どうしようという感じ。
きっと、身分とか、色々事情があって婚約が難しいんだろう。それを話すのもきっと、難しいに違いない。
ということで、私はそれ以上追求するのを止めた。別に、アルの惚気話を聞きたくないとか、そんなワケじゃないよ?
通常よりは長いお茶会を終え、お父さまと帰宅。
でもお父さまの方はこんな短い時間の出勤でいいのかしらん。
まあ、ずっと忙しいのが続いているから、たまには、ほぼ休みのようなこんな日があってもいいのだろう。
帰りにバンフォード大公の真似をするつもりだったけど、なんとなく、そんな気分にならず……私は遠ざかる王城をぼんやり眺めていた。
ウィリアム:「うおお~、アリッサ様、グッジョブ!殿下が声を上げて笑う姿なんて、明日にはもう、貴族界一大スクープですよ~。それに引き替え殿下ときたら。せっかくのチャンスにどうしてはっきり言わないんですか……」




