若かりし頃(お祖父さまの話)
あれは儂が20代半ばくらいだったか……。
その頃、リーバル周辺の海には魔物が多くて海賊も出没する状況でな。リーバルは物騒な土地というイメージだったよ。
儂は当時、リーバルの統領をしている叔父のところに身を寄せていた。海の魔物でちょっと武者修行をしようと思い立ったからだ。
髪は茶色く染め、カールトンの名前は隠していた。
バートと会ったのは、そんなときだ。港の居酒屋だったのう。
海賊とは知らんかったよ。人懐っこいうえに遠慮も知らんヤツでな、初めて会った儂に散々奢らせおった。
ん?そう、あやつ、まあモテモテでな~。ふらっとたまにリーバルに現れるんだが、あやつが来ると港から女がいなくなるからすぐ分かると言われるくらいだった。女がみんな、あやつを追っかけるんじゃ。
歌と……異国の楽器、リュウラだったか?あれが巧くて、酒を飲んだらよく弾きながら歌っていた。これがまた、切なく物悲しい調子で、女がコロッと参ってしまうんじゃ。
さて、いつものように海の魔物退治に出掛けたときだ。
向こうから黒い船が来てな。すると儂の船の船長が「あれはこの海域によく出る海賊だ、急いで引き返しましょう」なんて言い出した。
リーバルの港を預かるカールトン家の者が、海賊を見て逃げるとは何事かと儂は怒ったよ。しかし船長は、この小さい船と少ない人数では無理だと。
言い争っているうちに、海賊船には追い付かれ、接舷された。
ということで、儂が全部捕まえてやるわと待ち構えておったら……一番に乗り込んできたのがバートだったんじゃな。
「あ~、見慣れない船だと思ったら、まさかアンタの船とは」
儂を見るなり、そう言われた。ちなみに船はカールトン家の紋章を外し、漁船風に擬装をしていた。
「お前が海賊とは知らなんだ。だが、知った以上は見逃せん」
「じゃあ、仕方ないな。……なあ、オレとアンタで一騎打ちしないか。アンタ、強いだろ?オレの部下を大勢、斬って欲しくない」
「負けたら、素直に引き下がるか?」
「もちろん。海の男に二言はない」
ということで……なんと、真夜中まで船の上で戦ったものよ!
儂が戦った中で、バートは確実に3本指に入る腕前だろうなぁ。
結局、儂の方が対人戦に長けておったせいもあるだろう、儂が勝った。あやつの剣を叩き折って、チェックメイトだ。
ん?
海賊のバートが何故、リーバルの統領になったのかって?
バートはそもそも、儂と同じように海の魔物退治で腕を上げるためにリーバルへ来たらしい。その過程で周辺の海賊達と仲良くなったらしくてな。一緒に魔物退治をするようになり、退治した関係上、そこを通過する船からほんの少しばかりの通行料をもらうようになったそうだ。
ま、海賊達も食わねばならんしな。
褒められたことではない。ないが、国や領がやらねばならんことが出来ていなかったせいでもある。
そんな訳で、叔父とも色々と協議したうえ、バートにリーバル周辺海域の保全を仕事としてやってもらうことになったんじゃ。バートの下におった海賊らもまとめて。
まあ色々と面倒なこともあったが、叔父がなんとか処理してくれた。
バートもリーバルの地に愛着が湧いたんじゃろ。荷が重いだの何だの言っていたが、最終的には引き受けたよ。
で、結局それを10年ほど務めてからだったか……叔父が引退を決めたので、今度は統領を引き受けるよう頼み込んだ。柄じゃないと言うのを、儂でも火龍公爵を継いでいるんだから、お前も出来る!と無理矢理、就任させたんじゃ。
10年でリーバル周辺が安全になり、交易も盛んになったんだから、バートの腕は評価せんとなあ?
あやつがカールトン領の南を守ってくれるので、儂も安心していられるというもんよ。
ふふ、お互い、腕がなまってないか、一度確かめてみんといかんなぁ?
バート、とある貴族の庶子です。
なので公には海賊をやってた事実は消されてます。




