リーバルの隠し港
翌日、朝早くからリーバルを出立した。
兄さまもマシューも、一昨日に続いて昨日も遅くまで起きていたようなのに、眠そうな様子もなくバートと挨拶を交わしている。
一方、早くに寝たはずの私はまだポヤ~としたままだ。うーん、こういうところは子供の体なんだなぁとしみじみ思う。鍛えているつもりだけど、まだそんなに体力はないし、夜はすぐ眠くなるし。
まあ、でもあれよね。寝る子は育つって言うから。今はしっかり睡眠をとって、背とか、伸ばしていかなくっちゃ。
「またお出でください。お待ちしております」
バートの挨拶を受けて、私は丁寧にカーテシーを返した。
「はい!今回の訪問はとても有意義で楽しかったです。次は、船で海にも出たいです!」
「はっはー!それは是非にでも……と言いたいところですが、マクシミリアン閣下の承諾が必要でしょうなぁ。姫が閣下を説得できましたら、そのときには」
くぅ。お父さまの許可かぁ。……最近の過保護っぷりを思うとなかなか難しそうな気がする。
よし、帰ったら、まずはお祖父さまを落としてみよう。
帰りに、リーバルの一番重要な場所に寄ると兄さまに言われた。
「一番重要な場所?港じゃないんですか?」
「まあ、見てのお楽しみ」
───そうして、行きとは違うルートで川沿いを遡る。
ちなみに、川はテイラー川と言い、まあまあな川幅だ。リーバルの東を流れている。船数隻が余裕で航行できるほどの川だ。ただ、両サイドは20~30mほどの断崖。大地の亀裂の間を川が流れているといった感じだろうか。
川沿いの道は、その崖を削って作られたものらしく、馬車が4台は並列して走れそうなほど広い。
行きに、どうしてこの道を通らなかったのかな?いい道なのに。
不思議に思っていたら、カーブを曲がった先にすごい空間が待っていた。
ぐるりと断崖絶壁に囲まれた直径数百mはありそうな円型の湖───いや、違う。ここも川の一部だ。奥に滝が見える。
「これ……」
「あれがイリヤーナの滝。そして、ここはリーバルの隠し港でもある」
兄さまが指した先に、軍船が並んでいた。
「!!」
黒々とした船体は、少し不吉な雰囲気だ。
「イリヤーナの滝があるから、それを登って領都まで他国の船が攻めることは出来ないけどね。でも、リーバルを落としたい国はあるから防衛は欠かせない」
……まあ、命を狙われたことがあるから、そんなにほんわかした世界だとは思ってなかったけど。
侵略とか戦争とか、やっぱりあるのかぁ。軍船の砲門が見えてしまって、重苦しい気分になる。
「アリッサもカールトン家の一員だからね。こういうことも知っておいた方がいい」
「はい、兄さま」
何かあったら、お父さまも兄さま達も戦いに赴くのだろう。
……私は戦争の体験はないけれど。それがどれほど悲惨かは知っている。これから先、戦争が起こることのないようカールトン家の者として、力は尽くしたいなぁ。
岸壁を削った道はここまで。
ただし、カールトン家や許可を得た一部の者だけが使用できる昇降機がある。かなり貴重な魔道具らしい。
また、滝の横に水閘??とかいう区画があり、そこで船を上に上げるそうだ。
そちらも、もちろん魔道具。かなり大掛かりな装置で、動かすのにどれだけの魔力が必要になるのかと思ったら、動力は滝だと言われた。
管理している技術者の人が詳しく教えてくれたけど、うーん、ちょっと難しすぎる~。
なんとなく、前世の水力発電の仕組みに似ている気がした。あれ?じゃあ、電気が作れそうじゃない?それとも落差エネルギーを電気ではなく魔力に変換してるのかな?面白いね、この世界の現象……。




