表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/353

活気あふれる港町に飲まれそう~

 翌日、朝食後に港を案内してもらうことになった。

 領館は高台にあるので、港まではまあまあの距離を歩かねばならない。これ、食料とか飲料とか、屋敷まで運ぶの大変だろうなあ……なんて思う。

 領館を出ると、オリバー兄さまが手を繋いできた。一緒に階段を下ってゆく。

 段々に並ぶ家々はカラフルで可愛い。カールトン領のはずなのに、まるで遠い異国へ来たみたい。前世のイタリアで、こんな風な海沿いの街があったような気がする。

 眼下の青い海はキラキラしていた。カモメに似た白い鳥が飛んでいる。

 港に泊まっているのはたくさんの帆船だ。

 やばい、もうテンション上がるぅ!

「アリッサ、跳び跳ねすぎだよ」

 兄さまが目を細めて笑う。でも仕方ないよ、興奮が止まらないんだもん!


 海のそばはとても賑わっていた。箱に入ったたくさんの魚を担いで歩く人、樽を担いでいる人、人、人、人!こんなに大勢の人が密集してる場所、領でも王都でも行ったことない!

バートが「失礼、姫」と私に声を掛けてきた。そして左腕一本でさっと抱え上げ、縦に抱っこにされる。

 ひゃああ、私、だいぶ重くなったと思ったのになんて軽々と持ち上げるの?!

「あの……!」

「居心地は悪いでしょうが、海の人間はちと大雑把なので。アリッサ様が押し潰されぬよう、無礼とは思いますがこの形でお運びさせてもらいたい。……よろしいですか、オスカー様?」

「バート殿にお任せできるなら安心です」

 兄さまが頷く。

 ううう、兄さま達に抱っこされるのは慣れてるし平気だけど、こんな素敵なオジさまに抱っこされるのは恥ずかしい~。しかもこんなに人目のあるところで。

 もじもじ恥ずかしがっていたら、兄さまが目を丸くした。

「あれ。アリッサでも恥ずかしがるんだね」

 当たり前です!中身がもし普通の6才だったとしても、恥ずかしくなる年頃です!

 でも、この人混みと喧騒の中、良い身なりをした私が危ないのは理解しているから、大人しく従うけどさ。


「おや、統領!カワイイお姫さまをお連れだね。どこから拐ってきたんだい?」

「統領~、ダメですよ、幼気なお嬢さんをたぶらかしちゃ」

 人混みを抜けながら進むと、行き交う人々に声を掛けられる。バートはかなり人気者だ。そして、誰も彼も気さくでフレンドリーだった。

「なんだなんだ、随分な言われようだな!こちらは大切な姫君だよ、今日は有り難くも街を案内するお役目を賜ったんだ。私の悪い噂を姫のお耳に入れないでくれ」

「あっはは、さあ、姫様、ルーラの貝を差し上げよう。これを耳元に置いて寝ると、優しい波音が聞こえてよく眠れるよ」

「姫様、これは南国の果物だ、どうぞ!悪い統領に気をつけて!」

 ふええ、すごくチヤホヤされて緊張する~。姫呼びも止めてぇ。

 ───市場らしきところは、もっと熱気がすごかった。

「お嬢様!あの人達と話をしたいんですが、一緒によろしいですか!」

 喧騒に負けじとマシューが大きな声で聞いてきた。私は手で大きな丸を作る。

 マシューを先頭に、先へ進む。

 着いたのは、珍しい南国の果物の乾物を並べて売っている一団だ。

「コニチワ!」

『太陽に感謝を』

 あ、南方語だ。

 まだようやく帝国語の基礎会話が出来るだけなので、南方語で分かるのは挨拶くらい。

 マシューは流暢に南方語を操り、何やらバンダナを巻いたイカツい男性と話したあと、私を呼んだ。

「お嬢様。お嬢様が探している南方産の苦い実について、説明してもらっていいですか?」

 あ、カカオのこと?!

「コニチワ!オジョーサマ」

『たいように、かんしゃを』

「オオ、言葉、シャベレル?」

「ごめんなさい、挨拶だけなの」

 バートに抱っこされたまま、男性と話をする。

「何、サガシテル?」

「えーとね、これくらいの……」

 手で20~30㎝くらいの大きさを示しながら、説明する。男性はある程度の言葉は分かるようだけれど、細かいニュアンスは隣でマシューが通訳してくれる。

「楕円形の実で、中に3㎝くらいの種がいっぱい入っているやつ。白い果肉が種のまわりについてて、それは食べれたんじゃないかなあ。甘酸っぱいと聞いた記憶が……」

「アア!アルヨ。カカロ、ネ。ソレ欲シイ?」

 やった~!私は勇んで、カカロの実ではなく中の種が欲しいと頼んだら、男性は首を傾げた。

 他の国も回る関係上、次にこのリーバルの港まで来るのはかなり先……半年以上先になると言う。それは全然、構わない。

 その上、カカロはすっごく高級品だと言われた。

 そ、そうなのか……。

 私を抱っこしていたバートが不思議そうに私を見た。

「カカロの種の飲み物はマヤムで飲んだことがありますよ。あれをアリッサ様は飲みたいんですか?」

「え?飲んだことあるんですか?どんな飲み物なんですか?」

「コンカと唐辛子を混ぜたドロドロっとした飲み物です。滋養強壮や精力……んん、まあ、大人の飲み物ですね」

 コンカ……トウモロコシみたいなやつだっけ。

 え?あれ?私が思ってるのとは違うのかしら??

 私が不安になったら、兄さまが「とりあえず、1樽か2樽分、頼む」とさっさと注文してしまった。

「兄さま……でもあの……」

「すでに現地で高級品として流通しているのだろう?父上も興味を持つよ。アリッサが欲しいものでなくても、商会としては手に入れておきたい」

 そっか~。カカオだったら……嬉しいんだけどなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ