兄さまと一緒に、初めての馬車旅!
無事にカールトン商会新店舗が開店した。
初日から大盛況だったそうだ。そうだ───というのは、私は手伝いに行っておらず、マシューから聞いただけだからである。
ま、ちっさい私が店内をウロウロしてても邪魔なだけだしね。
さて、今日はなんと!
オリバー兄さまの視察に付いて、2泊3日の馬車旅に出る日だ。
我がカールトン領の南部は海に面している。だからこそ、うちは他国からの輸入が得意なのだけど、その港町リーバルまで視察に行くのである。
領都からリーバルまで、馬車で丸一日。
川を船で下れば、半日ほどで着くらしいけど、他の地域も見て回るから馬車にしたらしい。
馬車!
念願の馬車旅~!わーい!
ちなみに、マシューも同行する。というか、マシューがリーバルへ私を連れて行く計画を立ててくれたようだ。
うう、マシュー大好き。
護衛はメアリー。
リックとテッドは3日も訓練から離れるのはダメということで、付いて来れなかった。2人とも、すごく行きたそうだったけどね。
他に、オリバー兄さま専属の護衛の人もいる。その人は馬で馬車の横に付いていた。
「あの真っ赤な畑はなんですか?」
「あれはビーリャの花だね。ビリルという野菜があるだろう?あと1か月ほどしたら、それが採れるよ」
「じゃあ、あの青い畑は?」
「青芋の畑だよ」
「へええ、芋だけじゃなく葉っぱも青なんですね!」
兄さまの膝の上に乗り、私は移り変わる景色に目を見張りながら次々と質問する。
ちなみに、今の私は黒髪だ。紅い髪はどうしても目立つので、昨夜、黒く染めた。専用の薬剤でないと落とせないため、この旅の間はずっと黒髪だ。
兄さまとお揃い!兄妹らしくていいよね。
兄さまは私の立て続けの質問を嫌な顔一つせず、全部答えてくれている。
はああ、兄さまはホント、物識りだよな~。すごい、カッコいい!
「兄さま、なんでも知ってますね」
「アリッサに何を聞かれても大丈夫なように、たくさん予習してきたんだよ」
穏やかに笑う兄さまは、本当に素敵だ。常日頃から領地のことを考え、いっぱい学んでいることを私は知っている。現在、領はお祖父さまが取り仕切っているけれど、兄さまはその立派な右腕だ。
「……兄さま、足が疲れませんか?」
窓からの景色が見やすいように私を膝に乗せてくれる兄さまの足がそろそろ心配になってきた。ちらっと兄さまを見上げれば、前に座っていたマシューが御者に合図を送った。
「一度、休憩しましょう。馬たちも疲れたでしょうし」
「そうだね」
兄さまが頷いて、しばらく馬車を止めて休憩することになった。
王都と各領都を結ぶ主要街道は石畳だけれど、それ以外は舗装されていない道が多い。
リーバルまでの道も綺麗に整備はされているけれど舗装はされていないので、ときどき大きく馬車は揺れる。そもそも、馬車の乗り心地はさほど良くない。が、予想していたほどにはひどくない気がする。
馬車を降り、私はすぐに車輪を覗き込んだ。
「お嬢様、危ないですよ。馬車の下には入り込まないでくださいね」
「入らないよぉ」
私が見たいのは車輪だ。
木で作られた車輪には、一番外側に黒いものが付いていた。まさかゴムタイヤ?と思ったけど、なんか違うような。
「車輪が気になるんですか?」
「この、黒いのは何?」
「ルージェンの革です」
「ルージェン?」
「熊ぐらいの大きさの魔物ですね。動きは遅くて、攻撃すると丸まります。皮膚は弾力があって、攻撃を跳ね返すんですよ」
なるほど。その弾力性を利用しているのかぁ。ゴムの代理だね。賢い!
「アリッサは車輪にまで興味があるのかい?」
私とマシューのやり取りに、兄さまが面白そうに聞いてくる。興味があるというか。
「このルージェンの革を、何重かにして車軸と上の荷台部分の間に挟むのは難しい?」
私の質問を受けて、マシューは馬車の下を覗き込んだ。
「……出来ないわけではないですね。それで車軸からの衝撃を吸収させるということでしょうか?」
「うん。金属をこうクネクネと巻いて、バネを利用してもいいはずなんだけど。どこにどう付けたらいいのか分からないし」
さらさらっと手帳にメモを取り、マシューはにこっと笑った。
「いくつか試してみます」
……馬車の乗り心地改良にもすぐ対応してくれるマシューはホント、助かる。兄さまも感心したようにマシューと私を交互に見た。
「アリッサとマシューはいいコンビだね」
「恐れ入ります」
「2人に付いていけるよう、私も頑張らないとなぁ」
「兄さまの方がたくさん知識がありますよ?わたしの方こそ、いろいろ教えてください」
「はは、私の知識なんて薄っぺらなもんさ」
それは謙遜しすぎってもんです、兄さま。




