第一王子は意外と苦労人?
また文章量が多くなってしまいました…
さて、とても気疲れする王城お茶会、サラッと終わってはくれなかった。
何故なら第二夫人のシンシア様が乱入してきたからだ。
……私は、シンシア様は勝手にラスボスっぽい悪役令嬢をイメージしていた。派手な豊満美女がオーホホホと笑ってそうなアレ。
実物は。
なんと大阪(前世の)のオバちゃんだった。いや、大阪のオバちゃんって私は実際に知らないんだけど、なんていうか、そんな感じ。ヒョウ柄を着て、誰かれなく平気で話しかけそうな。
うーん……この世界の貴族で、普通にオバちゃんもいるとは……。
お母さまも王妃さまも年齢を感じさせない美女なので、ある意味、すごい衝撃。
「ああ、アナタが火龍公爵家のアリッサちゃんね。一度会ってみたかったのよ~。まあ、なぁんて綺麗な赤髪!火龍公爵より鮮やかで綺麗じゃない。羨ましいわぁ、あたくしってばこーんな地味な色合いでしょ。容姿も悪いのに髪も地味で、取り柄がちっとも無いのよねぇ。ほら、おかげでマーカスも冴えないでしょ~?悪い子じゃないけど、やっぱ見た目って重要だものねぇ」
マシンガントークに目を白黒させていたら、視界の端に溜息をつくマーカス殿下が見えた。
うん。
こんなオカンじゃ、苦労するよね。
「母上。何をしに来られたのですか」
「せっかくだから、クローディアちゃんもアリッサちゃんも、あたくしのコレクションを見に来ないかと思って。あたくし、陶磁器を集めているの」
「母上」
「さ、いらっしゃいな」
断れないようだ。
全員が強ばった顔の中、無表情にザカリー殿下が立ち上がる。
「母上の陶磁器コレクションは見飽きました。部屋へ帰ります」
「ちょっとザカリー!」
「茶会だけという話でした」
取り付く島もない態度で殿下はさっさと部屋を出て行く。ず、ずるい……。
アルにも部屋へ帰れば?というようなことを言うシンシア様。しかしアルは「いいえ、僕もシンシア様の陶磁器コレクションをぜひ、鑑賞したいです」と飛びっきりの笑顔で返して、私の横に並んだ。
ごめんね、と唇が動く。私は首を振った。別にアルは何も悪くない。
───コレクションルームへ行く道中も、コレクションルームについてからも、シンシア様のお喋りは止まらなかった。
すごい。怒涛すぎて、何を言ってるか分からない。
そしてそんなシンシア様が出てきたからだろう、アルとエリオットは積極的に前へ出てくれるようになった。どうやら私とディの防波堤を務めているようだ。シンシア様はどうにかして私かディを取り込みたいらしく、やたらと親しげに話しかけてくるから助かる。
途中、急にトイレへ行きたくなった。さっき、マーカス殿下に話に合わせてお茶をたくさん飲んだせいだ。どうしよ。
隙をみて、こそっと端に控える侍女に意を伝える。
侍女は頷き、次の部屋へ移るタイミング(コレクションルームは3部屋ほどあるらしい、)で、さっと私を廊下に案内してくれた。
た、助かった~。
「ありがとう」
「いいえ。こちらへ、どうぞ」
あまり表情は変わらないけど、有能そうな人だな~。
無事にトイレを済ませ、侍女の案内で部屋に戻る。
あれ?ここ、さっきのコレクションルームではないような?と思ったら、窓際にマーカス殿下が立っていた。
……謀られた。
「母が失礼した」
「……それは殿下が謝ることではないと思います」
「では、先ほどの茶会での礼を。アリッサ嬢が受け答えをしてくれて助かった」
眉間にかなり力が入っている。私はふと笑ってしまった。
「あんまりみんなが喋らないので、焦りました……」
「私は嫌われているからな」
「そうなんですか?」
眉間の皺が深くなる。
「……良い噂を聞かないだろう?」
「わたしは、そういうことには疎いので」
「そうか……」
謝罪とお礼が言いたくて、わざわざ別室に呼んでくれたらしい。マーカス殿下がますます中間管理職に見えてきた。
若いのに苦労してるのね……。
「アリッサ嬢は」
しかし、ためらいがちに口を開いたマーカス殿下の質問は、回答に少々気を使うものだった。
「アルフレッドと婚約しないのか?」
「四龍は、王家の楯です。父は、不要な争いの種を望んでおりません」
「……アルフレッドではなく私と婚約すれば、争いの種は完全になくなるんだが」
なーるーほーど~、そう来たか。
私とマーカス殿下が婚約したら、マーカス殿下の王太子の立場は強固になるよね。アルだとややこしくなりそうだけど、殿下となら問題なし?
でも。
「え~、わたし、末っ子でして」
「?」
「両親からも兄姉からも甘やかされています。……なので結婚は、ムリにしないでいい、するなら好いた相手としなさいと言われております」
一瞬、殿下はポカンとしたあと、プッと吹き出した。
「意外だ。火龍公爵はかなり君に甘いんだな」
「はい。なので、ごめんなさい」
深々と頭を下げる。マーカス殿下は肩をすくめた。
「残念だ」
「そうですか?わたし、甘やかされてるので我がままで扱い大変ですよ。殿下は、もっと大人しく横で支えてくれる人を探した方が幸せになれると思います」
「そんな相手、簡単には探せないだろう……」
「まあ、人との出逢いって……運ですもんね~。あ、じゃあ、もしわたしが殿下にピッタリそうな人を見つけたらご連絡します」
わりと本気でそう答えたら、殿下は苦笑した。
「……他人ごとだと思って適当に言ってないか?」
「いえ、まあまあ本気です。アルフレッド殿下はたぶん王さまになる気がないと思うので、マーカス殿下にはしっかりと王位を継いでもらわなきゃなんないですし」
「アルフレッドとそんな話を?」
「いえ、そんな深い話はしたことないですけどね。ただ、なんとなく雰囲気で。……マーカス殿下も継ぎたくない方ですか?」
「継ぐものだと言われて育ったから、それ以外、考えたことがない」
「じゃ、大丈夫ですよね。わたし、殿下と婚約はしませんが支持はします!」
明るく宣言したら、殿下は声を出して笑った。
年相応の笑顔だ。なんとなく、ホッとした。
今日のお茶会、きっとシンシア様にいっぱい言われて力が入ってたのだろう。アルにしても、マーカス殿下にしても、親の思惑を押し付けられて大変だ。
わたしは、自由にさせてもらえてホント、幸せなんだなぁ。
そのとき。
扉が開いて冷ややかな声が流れた。
「兄上。このようなところで何をされているんですか?」
アル?!
部屋が一気に氷点下になった気がした。
えっ……アルの全身から白い炎が上がってる気がする。こんなに本気で怒ってるアル、初めて見た。なんで?!
マーカス殿下も隣で息を飲む。
「アルフレッド……お前……」
「アリッサ。こっちへ」
「は、はい……」
よく分からないけど、逆らっちゃ危なそう。
「えー……あの、アル。シンシア様のコレクションは……」
「それは今、どうでもいいことだよね?」
「…………デスネ」
ど、どうしよう。下手なことを言うと鎮火どころか更に燃え広がるよ、これ。
身をすくめていたら、騒がしい声が救ってくれた。
「まあ!マーカスにアリッサちゃん。そんなところにいたの?どこへ行ったか心配したわよ!」
まさかシンシア様の登場がありがたいと思うなんて。
でも、助かった~……!
本日の夕方頃、活動報告にSS「マーカスのぼやき」をあげます(笑。




