みんな…もっと喋ろうよ…
エリオット、ディに続いて陛下と王子達に挨拶をし、円形のテーブルに着く。
と、陛下はそれを見届けて「では、ゆっくり楽しんでくれ」と退出してしまった。
……参加しないんかーい。
いや、まあ、子供ばかりのお茶会に大人の陛下が1人だけ混じるのは変だと思ってたけどさ。あれだよね、私やディ達を呼ぶための口実だったってことよね。
陛下をこんな風に使っちゃうシンシア様って怖いな。
「今日のお茶は、トーア国のものだ。香りがいいんだ」
マーカス殿下が運ばれてきたお茶について説明する。
「……南の島国ですね」
「ああ。お茶が特産の国だ」
エリオットが短く答え、マーカス殿下が頷いたあと沈黙が落ちる。その間に、侍女が静かにティーカップを並べてゆく。
え……会話、これで終わり?
ちらっとディを見るも澄ました顔で座っている。喋る気、完全にゼロだ。
アルも、ザカリー殿下も無表情。
ま、待って。
もしかして、こんな拷問みたいな時間が続くの?!
やだぁ、耐えられない!
たぶん私も黙っている方がいいんだとは分かってる、けど。こんなの、無理だよぉ……。
ということで恐る恐る、言葉を発してみた。
「トーアのどの地方のものですか?」
アルがちらっと心配そうな視線を向けた。
お母さまから、アルはマーカス殿下やザカリー殿下とは折り合いが悪いと聞いている。特にマーカス殿下はアルを虐めていたこともあるそうだ。このお茶会で喋らないのは、マーカス殿下と不要な争いをしないためだろう。
マーカス殿下は、私の質問に少しホッとした顔をした。
「タルム山で採ったものだな」
「すごい!貴重茶葉ですね。初めて飲みます」
「カールトン商会は世界中の食品を輸入していると思っていたが、この茶葉は扱っていないのか?」
「タルム山のものとなると、注文を受けてからの仕入れになります。販売することはあっても、我が家で飲まれることはないですね」
「そうか」
あ、マーカス殿下、自慢気な顔になってる~。
すごいのは王家の力であって、殿下は何もしてないよん。って言ったら首をはねられるかしら。
「こちらのお菓子は何ですか?」
続いて、こっちも自慢したいのだろうと予測し、ティーカップと共に配られたお菓子を指して質問する。
よくぞ聞いてくれたという感じで殿下がニコニコと答えた。
「帝国で流行ってるメーレというお菓子だ。雲のように軽くてうまい」
食べてみたら、メレンゲ菓子だった。
なるほど。そういえば、こういうお菓子はこの国にはなかったな。
あ、これに粉のアーモンドを加えたらマカロンじゃなかったっけ?色粉でカラフルにして可愛いマカロン作ろうかな~、カフェメニューにぴったりじゃない?!
いいアイディアをもらってホクホクしてたら、マーカス殿下が「喜んでもらえて何よりだ」と嬉しそうに言う。
はっ!
私、もしかして、にやにやしてた?
アルだけでなく、ディもエリオットも心配を超えて不安そうな顔でこっちを見てる。
ちょっと。
それなら、もっと喋ってよ。
その後も私とマーカス殿下の当たりさわりのない会話は続いた。
それにしても。
意外とマーカス殿下って気遣いの人かも知れない。一生懸命、会話を続けようとしてて、なんだか中間管理職で苦労してる人に見えてきたよ……。 個性の強い職場(王宮)にいて大変だよね……。




