大きなベッドをくっつけて
客間にキングサイズのベッド2つをくっ付けてもらった。
ベッドの移動は大変かな?と思ったけど、うちの従僕は身体強化できる者が多いらしく、簡単にできますよ~と笑顔で言われた。重い物も軽々運べるなんて身体強化って便利ねぇ。私もやりたい……。テッドに教えてもらおうかな。
並べたベッドには、横向きで寝る。1つはアルとエリオット。もう1つは私、ディ、アナベル姉さま。
足は外向きにして、みんなで頭を付き合わせて寝るのだ。
「まあ!面白い寝方ね」
ディが感心する。
だって全員横並びで寝たら、おしゃべりしにくいもんね?
なんだか前世の修学旅行を思い出す。ワクワクしてくるなぁ。
ちなみに、1つの部屋で全員寝ると言ったらお父さまは猛反対した。
「アリッサ!いくら子供とはいえ、男女同室は駄目だ!」
「でも、アルもエリオットも、前に一緒にパジャマパーティーやったもん」
「!!!」
……お父さま、どうやらそのことは知らなかったらしい。
そうなんだ。お母さまはお父さまに言ってなかったのかぁ。
真っ赤になったり真っ青になったり、言葉を失って百面相をしているお父さまを抑え、パジャマパーティーを許してくれたのはお祖父さまだった。
「そもそも、今日は我が家に誰も客人は来ていないという話になっとるんだろう。では、アリッサがどの部屋でどう寝ても自由じゃ。なあ?」
「父上……しかし……」
「大体、王家と火龍、水龍が良い関係を築けているのは喜ばしい話だろうて。四龍は昔っから微妙に距離があるからのう。お前は少し堅苦しくていかん」
お祖父さま、さっすが~!
ただ、アルとエリオットは一度別の部屋に連れて行かれた。
お父さまは2人に何を言ったんだろう?6~8才児で一体、どんな間違いがあるって言うのよね?お父さま、心配しすぎだって。
ご機嫌でベッドに寝転ぶディが私を見上げる。
「殿下ともパジャマパーティーしていましたのね」
「まさか水龍公爵家でも王城でもパジャマパーティーなんて楽しいことをしてたなんて……ずるいわ、アリッサ」
アナベル姉さまは口を尖らせる。
そう言うだろうなと思って、姉さまも誘ったんじゃん。もっとも王城でのパジャマパーティーに関しては不可抗力なんだけどね~。(モラ湖へ行った件は、ディ達には秘密と言われた)
普通、高位の貴族の子供は、お互いの家に泊まりに行くような友達関係なんて築かないらしい。つまり私はかなり特殊体験をしているということだ。
「でも、水龍公爵家へのお泊まりはディが誘ってくれたおかげだし」
「あら?あれはアリッサがうちの領にも行ってみたいわ……みたいな話をしたから」
「え?もしかして社交辞令だったの?!」
「まあ……そんなつもりで最初は口にしましたけど……アリッサが本気で喜ぶんですもの……」
がーーーん。
まさか貴族の話は言葉通りに受け取ってはいけない件だったなんて。
がっくり落ち込む私に、ディが慌てて頭を撫でる。
「でも、誘って良かったですわ。おかげでこんなに仲良くなれましたもの。……今度、アナベル様も一緒にうちへいらして?」
「ぜひ」
ディとアナベル姉さまが顔を見合わせて微笑みあった。……出会ったときのバチバチ具合いを考えると───今の関係、すごいよね。
パジャマパーティーの大人の監視役として、部屋の隅にはメアリーとウィリアムが立っている。
ベッドに寝転んだアルは、ぐるっと見渡しながら苦笑した。
「こんな大勢と一緒に寝るなんて初めてだ」
「うちは、アリッサが寂しがるから割りとみんなで寝たわよね?」
「え?そ、そんなことないですよ、姉さま」
「あら。しょっちゅう私やグレイシー姉さまのベッドに潜り込んでたじゃない。兄さま達のところも行ってたって聞いたけど」
……それは、たぶん、私が前世の記憶を思い出す前のことだ。
「わたくしも5才くらいまで、よくエリオットと寝てましたわ。1人で寝るのに慣れるまで、大変でしたわね~」
ディも懐かしそうに言う。
む……じゃあ、幼い私が姉さまや兄さまと寝てたのは変じゃないよね?
安心していたら、エリオットが盛大な溜め息をついた。
「ディは怖い話を勝手に聞かせて、自分だけさっさと寝るからな。正直、別々で寝るようになってホッとしたよ」
「ええ?!わたくし、エリオットも寂しがってると思っていましたのに」
「寂しいわけがない!ディは寝相は悪いし、寝言で怒ってくるし、大変だったんだぞ」
「ちょっと、それを今、こんなところで言わないでくれます?!」
ふふふ、可愛いな~、ディとエリオット……。
アナベル姉さまと視線を交わし、2人でニヤニヤする。
ディはプーッと膨れて私の横腹を突ついた。それを突つき返してみたりして……はあ、楽しい。
アナベル姉さまが頬杖をついて、ディに尋ねた。
「ねえ、クローディア様。怖い話がお好きなの?」
「ええ、アナベル様。大好きですわ。……あ、アルフレッド殿下。王城には怖い話がいっぱいありますでしょ?聞かせていただけません?」
「そうそう。そういえば、お母さまが首を探して歩く騎士を見て腰を抜かしかけたって!殿下は見ました?!」
……ひえっ?!
急に話がイヤな方向へ進み出したぁ!まさかディとアナベル姉さまが怖い話好きなんて。
私がぐっと息を飲んだら、アルが私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「前に、アリッサにたくさん聞かせて怖い思いをさせてしまったんです。今ではなく、今度、明るいときにその話をしましょう」
「あら」
ディとアナベル姉さまの目が揃って私を向いた。生温い目だ。
…………私が怖い話苦手って意外だと思ってるんだろなー。
「アリッサ。本当に怖いのは、生きてる人間の方よ」
「そうそう。うちの屋敷にも割れた皿を持って歩く侍女が出るけど、別にフラフラしてるだけだから怖くないわよ?」
なんだろう。幽霊も報われないなってちょっと思っちゃった……。
ライアン兄様も参加したかったんですが、「10才以上はダメ」と火龍公爵に却下されました…。




