魔法も読み書き計算も出来る方がいいに決まってる
王都で波乱の誕生日を終え、南のカールトン領の生活に戻った。
戻ったけれど。
さすがに第2王子にケガをさせたというのは問題となり、朝のランニングと護身術の訓練以外は、自室から勝手に出てはいけないと謹慎を申し渡された。
とりあえず、牢に入れられたりしなくて良かった!
私が突き落としたワケじゃないとはいえ、王子の懸命な取り成しがなければ、お咎め無しにはならなかったかも知れない。処刑エンドを回避するつもりが、予定よりも早く処刑エンドにならなくて……ホント、良かった。
自室謹慎は、別に苦じゃない。家庭教師が次々来て、勉強することが山ほどあるし、隙間時間が出来れば、魔法の練習をするからだ。
ちなみに、火魔法はようやく初級の半分ほどに進んでいた。独学だからよく分からないけれど、素地はそんなに悪くないんじゃないかと思う。
まだ時間はかかるものの、今、私は蝋燭に火を点け、その火の大きさを変え、宙に浮かすことが出来る。
ついでに風魔法も始め、なんとかそよ風が起こせるようになっていた。すごくない?これって二属性は確実ってことよ?風が使えるなら、空を飛んでみたいわ~。
それにしても。1ヶ月も軟禁生活をさせられたら、さすがに長い!
ある日、隣領の領主の息子の婚約パーティーにお父さま達は出席することになった。
本来なら私も連れて行くところだろうけど、ほんの少し前に二日続けて王子に粗相を働いた件がある。留守番をさせておこうという話になったようだった。
ふふふ。婚約パーティーなんか面白くないからね。留守番でうれしいわ。
家族が出掛けたスキに、私はメアリーと共に久々に下町へ向かった。
「お嬢!ぜんぜん来ないから、オレ達のこと忘れたかと思ってたぞ」
テッドが顔を見るなり駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。王子さまにケガさせちゃって、きんしんになったの」
「はあ?!王子にケガって、お前、何やったんだよ」
目をまん丸にしてテッドが叫ぶ。リックがごちんと頭に拳骨を落とした。
「テッド。もうちょっと言葉づかい、丁寧にしようぜ」
「ふふ、テッドもリックもお友だちだから、ふつうでいいのに」
私がそういうと、テッドは笑顔全開で「ほれみろ」とばかりに兄へ視線を送った。リックは軽く肩をすくめる。
「そうそう、オレ、自分の名前やお嬢の名前を書けるようになったよ」
「本当?見たいわ」
「おう」
テッドがバタバタと練習帳をとりにいった。今、私はテッドやリックに読み書き計算を教えているのだ。こういう知識は、身につけておいて損はない。
いずれ、私の手足となって働いてもらおうなんて……別に思ってないからね?
「で、王子にケガって?」
リックが顎に手を当てながら、聞いてきた。
「木のぼりを おしえてあげたんだけど、下りるときに 王子がおっこちてホネを折ったの」
ぶっ。
途端にリックが吹き出す。
「王子に木登りさせたの?!」
「いい けしきを見せてあげようかなーって」
「お嬢は、ホント、最高だなあ」
しみじみとリックは感想をもらした。
……ええ?最高って、どういう意味?
テッドとリックと楽しく過ごし、次の宿題を渡して、メアリーと帰路についた。
そうそう、帰りは屋台でホカホカのお芋も買って、メアリーと分けて食べた。前世の石焼き芋とは少し違うけど、懐かしさに胸がじーんとした。