秘密が増えてゆく
魔力瘤治療も3回目になった。
体の方は特に変わった感じはない。
なお今日は、隠者の塔までアルが案内してくれるけど、そこからは他にすることがあるらしくて席を外すそうだ。
その代わり、帰りは一緒。
そう、とうとうディとエリオットとアルの3人でパジャマパーティーをする日なのだ!もう楽しみすぎて、かなり前からワクワクしてる。
「じゃあ、また後で」
塔に着いたら、アルが心配そうに言った。
治療っていってもただボーっと手を繋ぐだけだし、心配するようなことって何もないのに。というか、ただ待たせるだけは悪いので、毎回、付き添わなくていいんだけどなあ。
「治療でも、男とずーっと手を握ってるのは気になるもんだろ」
「……わたし、ほぼ寝てるのに?」
「お嬢は気が抜けすぎなんだよ。もう少し危機感を持て」
まったく、もう。
それ、ウォーレンさんに対して失礼だよ、リック。6才の子供相手に不埒な真似をするような人じゃないって。
アルがいないからだろう。
ウォーレンさんはリックに魔術の本を用意してくれていた。
「いえ、お心遣いは感謝しますが、護衛としての任務がありますので」
「ふふ……アルに……め、めめ目を離すなと……い、言われた?」
ウォーレンさんが楽しそうに目を細める。リックは表情を崩さず、一礼して部屋の隅に立った。
……さて、まずはいつものまっっずい薬草茶だ。
「味の改良を要求しまーす」
「か、改良できる……こ、頃に……治療がお、終わって、るよ……」
ちぇっ。
お茶を飲んで、しばらくじっとして───ウォーレンさんと手を繋いだ。
「い、一度……確認……し、したかったんだけど」
しばらくして、ウォーレンさんが急に話し始めた。今までになかったことなので、半分ぼーっとしていた私は返事が返せずに目をパチパチさせる。
「き、君は……も、もしかして、全属性の……まままま魔法を使え……る……?」
「……はい。土と水は初級しか試していませんけど」
「やっぱり……」
こちらをチラチラ窺っていた灰色の瞳がみるみるうちに曇る。そして、はあと重い溜息をつかれてしまった。
「えーと……何かマズイですか」
「全属性……つ、使えるのは……お、王族だけ……」
「え?そうなんですか?」
「お、王族でも……つ、つつ、使えない人……お、多い」
「はあ」
「属性も……か、隠した方が……い、いいね」
そっかー。なんだか秘密がどんどん増えていってヤダなぁ。
隠し事があると、会話も気を使わないとダメなんだもん。挙動不審になっちゃうよ。
「ア、アルにも……秘密……ね……」
「え?!」
「アルに……こ、これ以上、し、し心配ごと……ふ、増やしたく……ない」
がーーーん。
ウォーレンさんにそう言わせるくらい、私、アルに心配かけているの?!
「うう、分かりました……苦しいけど、心に秘めます……」
そう答えてから、はっと背後を振り返った。リックにも口止め……あれ?
「だ、大丈夫……ちょっとだけ……ね、寝て、も、もらった」
ウォーレンさん、本当にすごい魔法使いだわ。
ウォーレンさんは、ビックリするくらいアルを大事に思っている気がする。
そのことを少しだけ聞いたら、恥ずかしそうに俯きながら理由を教えてくれた。
……王城へ連れて来られた際、ウォーレンさんはほぼ廃人だったそうだ。そしてそのまま生きる屍として長年放置されていたのを、アルが看病してくれたらしい。看病といっても、二、三度、水を飲ましたり、体を拭いたりといった程度だったようだけど。
それでも、弟によく似た目が心配そうに見つめているから、なんとか世界が認識できるようになったのだという。
「い、今も……ぼ、ぼぼ僕が、く、暮らしやすい……ように……き、気を配って……くれるから……」
詳しくは聞けないけど、ウォーレンさんはたぶん虐待を受けていたのではないかと思う。そんなウォーレンさんの心が、アルによって救われたのなら……良かったぁ……。
すみません、“悪役令嬢は穏便に別れたい”の完結で力を使い果たしてしまって、来週の更新は週末頃になりそうです。
なにせ旅行に行く予定もありまして……(一泊だけど)v
お泊り会はきちんと時間を掛けて書きたいので、少々、お待ちください。
その代わり?というか、SSにもならない小話を活動報告に上げます。今夜か、明日夜辺りに。
良かったら、見てください。




