思わぬ大きな仕事を任されました
お父さまに呼ばれた。
……うぇ~、まだ何か説教することがあるのかしらん。王城から帰ってきたとき、散々、あれこれ言われたんだけどなー。最後には
「……これはもうアルフレッド殿下に娶ってもらった方がいいかもなぁ」
なんてことも言われた。
「そういうの、アルに対して申し訳ないから」
と文句を返したら微妙な顔をされたけど。
でも私、優良物件とは言い難いもんねえ?
───執務室に入ると、お父さまとマシューがいた。
「あれ、マシュー……」
「おはようございます、お嬢様」
この間、来てくれたばっかりなのに。
お父さまは書類の束をこちらにくれた。にこやかな顔をしているので、説教ではないらしい。
「実は王都の店を移転しようと考えていてね。その件で、アリッサには色々と案を出してもらおうと考えている」
移転!?
手元の書類を見ると、新しい店の見取り図などがある。今の店より倍近い広さだ。
「大きくするんですか?」
「隣の店舗が空いた。アリッサの試食のアイディアは良かったが、ご婦人方には店内で立って食べるのはちょっと……と言われることもあるからね。喫茶スペースを設けて、そこで試食セットをお茶とともに提供してみようかと」
隣は、バルを併設したワインを売っている店だった。確かに、ちょうど良い物件だ。
「いいですね!」
「この間のコーヒーだったか?あれも出してみると面白いだろう?……そこで、喫茶メニューの開発をアリッサに任せたい」
うっひょ~、重大任務!
いいのかなぁ?
でも、楽しそう……!
「それと、移転して空く元の店舗をアリッサが自由に使っていい。アリッサが考案したゲームや絵本などを中心に、雑貨部門を独立させたい。喫茶の方が先だが、構わないね?」
「えっ、雑貨店?!じゃ、文房具をいっぱい揃えていいですか!?」
「文房具?」
「カラフルな万年筆を作りたいんです!あと、便せんや封筒ももっと可愛いやつ。シールやハンコも欲しい~。手紙を書くことが多いのに、可愛いのが少なすぎ!」
「わ、わかった、好きにしなさい。マシューを補佐に付ける。それから、雑貨の新店舗責任者はオリバーに任せるから、オリバーとも話すようにな」
「はーい!」
6才の子供の仕事とは思えないけど。お父さま、太っ腹~。
私の部屋へ移動し、マシューとさっそく話し合いを始める。
部屋の隅にはリックが控えていて、2人の間はやや硬い空気だ。
でもリック、わざわざ訓練を休まなくても良くない?屋敷の中だし、相手はマシューなのに。……でも、もしかしたら、お父さまの指示なんだろうか?王城にも同行したし、リックに私の行動を全部把握させておくつもりなのかも。(どうかリックがお父さまのスパイに指名されていませんように~。リックは“お父さまの部下”じゃなく私の友達だもん!)
「さて、喫茶メニュー開発が先ですが……気になるので、さっき仰られたカラフルな万年筆について伺ってもよろしいですか?」
座るなり、マシューがメモ片手に聞いてきた。
「うん、あのね、羽ペンにだって青とか赤のインクがあるじゃない。だから万年筆も黒以外が欲しいんだよね。でも、できたら桃色とか黄緑とか橙色とか、キレイな色がいいんだけど」
マシューは手に持ってる万年筆を眺めながら、考え込んだ。
「万年筆は、帝国産です。この国の技術で作れるかどうか……」
「あ、そうか。そういえば特許って大丈夫?」
「特許?」
「勝手に模倣品を作っても国際問題にならない?」
「可能性はあります。ちょっと調べてみます」
「お願いね」
マシューに任せておけば、安心、安心。
まあでも、万年筆をうちで作る必要はないかもね。カールトン商会は、食品輸入の会社だ。物を作るのはあまり向いてない(と言いつつ、徐々に雑貨を作り出しているけどさ)。
そうだ!
「ん~、万年筆をうちで1から作るとなると時間もかかって大変だからさ。わたしとしては、インクの開発に出資するのがいいかな?って思う。どっちにしろ、帝国とどうやり取りするかの問題は出るけどね」
「インクの方ですか。それはいいですね。……でも、出資ですか?」
「そ。インクだって、すでに作っている工房があるでしょ?そこにお金を出して開発してもらうの。で、出来上がったら、たとえば売上の1割をうちの商会取り分にするとか、うちの商会でのみ扱うとか、そういう形を取るといいかなーって」
この世界にすでにあるものを改良するなら、その方法が早いし簡単だと思うのよね。
すると、マシューがポカンとした顔で私を見た。
「今日、旦那様から雑貨店の話を聞いたところなのに、もうそこまでアイディアが出るんですか?」
……いや~、これは別に私のアイディアじゃないもん。前世の知識を元にして考えただけだもん。その尊敬の眼差しは、辛い。
なかなか本文中に入れれないのですが、アリッサが天恵持ちということはカールトン一家および主な従者達には周知の事実です。アリッサだけが気付いていない(笑。
もっとも、“前世の記憶”ということは知られていませんが…。




