初めて思いっきり魔法を放ってみる
「ウォーレン」
アルは後ろを振り返り、あやしげな黒フードの人物に呼び掛けた。
「アリッサ。彼はウォーレン・バンクス。少し人見知りなんだけど、魔法の腕は国一番だ」
うっそりと黒フードの頭が下がる。
私もとりあえず頭を下げた。
「ウォーレン。先に視るかい?」
「……もう、視て……る……や、ややややっぱり……瘤が……い、いっぱい」
「瘤?」
「か、身体中、でででできてる……これ、よくない……」
ウォーレンなる人物は、フードの隙間からちらりちらりと私の全身を観察している。
薄暗いのに、瞳が青く光って見えるような。ちょっと怖い。
そう思っていたら、彼とバチッと視線が合った。その瞬間、ヒュッと息を飲んで彼は両手でフードを深く下ろす。
手が小さく震えている。
私はハッとした。
「あ、ごめんなさい。わたし、目隠しした方がいいですか?」
「え?目隠し?」
私の言葉に首を傾げたのはアルだ。
「人からの視線が怖いんですよね?目を瞑っていてもいいですけど、目隠ししてる方が安心できるかな?って」
「そうか。視線が怖いのか……」
アルが得心したように呟いた。
そして、ウォーレンさんに尋ねる。
「目隠しして貰うかい?」
「…………だ、だ大丈夫」
消えそうな声が答えて、ウォーレンさんは音もなく私に近付いてきた。
「ぼ、ぼく……こ、怖くない?」
「怖くないです」
一応、目を合わさない方がいいかと思い、視線を下に向けて答える。
「ま、魔法……初級の火球を……お、お、思いっきり、は、はは放って、く、くれる?き、君がで、できる、一番……お、大きなので……」
「思いっきり?」
それはやったことがないなぁ。部屋の中で練習するから、出したことがあるのは小さい火球だけだ。
「君は……ま、魔力瘤が……あああちこちに、で、できて、い、いるから……て、手を……つないで……お、おきたいんだけど……イヤな、なら、背中で……」
「あ、手を繋ぐんですか?いいですよ。よろしくお願いします」
はいと手を出したら、ウォーレンさんはビクッとしたあと、おずおずと骨張った手で壊れ物を触るように丁寧に握ってくれた。
ふうん。
最初は不気味な人かと思ったけど、とても繊細で優しい人みたいだ。
「じゃあ、あっちに向かってやってみますね」
広い空間の真ん中へ向け、意識を向ける。
思いっきり、一番大きな火球……うーん、どれくらいのが作れるか想像できないなあ……。
悩みながら、頭の中で魔法印を思い描き、火を呼び出す呪文を唱えつつ軽く手を振った。
ボン!
バスケットボール大の火球が現れる。
横目であれ?という顔をしたアルが見えた。
ふふん。これっぽっちじゃないよ、私の実力。いきなり大きいのを作ったことがないので……ここから大きく───
ゴォォォゥッ!!!
「どわっ?!」
突然、ものすっごい火の壁が出現した。リックの腰を抜かしたような叫びが上がる。
私の方は、ビックリしすぎて声も出ない。
視界一面を埋め尽くす炎は、しかし私の伸ばした手の少し先辺りで不自然に途切れている。まるでガラスの壁で隔てられているかのよう。
たぶん、ウォーレンさんが防御しているのだ。すごい。あの一瞬で発動するなんて。
火を消して、ホッと息を吐きながらウォーレンさんに頭を下げた。
「ありがとうございます。まさかあんなに大きな火球になるとは思ってなくて」
「す、すす、すごい、ね……こ、こんなに……ムダなく……魔力を流せる人……は、は、初めて見た……」
ウォーレンさんは、まだ火球のあった辺りを眺めていた。つい、視線を上げてしまったので顔が見えたけど、目を潤ませてうっとりしている……気がする。ちょっと目付きがアブナイ。
「こ、これは……確実に、ぼ、ぼぼぼくより、ま、魔力量は上だね……」
うっすらと上がった口角が、何故だろう、とても悪魔的で私はぞくりとした。
そして背後で、「やっぱりそうか……」と暗い声がしたので振り向くと、アルが壁に寄り掛かって落ち込んでいた。
そのポーズがなんか可愛い。……けど、アルの雰囲気から、どうもヤバそうな気配がビシバシ伝わってくる。
……やっぱり魔法が使えること、隠しておいた方が良かったのかしら。
こちらの作品の更新回数を減らして、新しい作品と同時連載をする心積もりでしたが…当初の予定とは全く違う話を書き始めました。
『悪役令嬢は穏便に別れたい』
たぶん、全部で15話前後になると思います。甘~い話を書いてやろう!と思ったはずなのに、ちゃんと甘い展開になるのか…現段階でナゾです…。将来、アリッサの甘酸っぱいシーンを書く予行練習になったらいいなぁと思ってたのに。やっぱ向いてないのかなー……。
こちらの作品とはだいぶテイストが違いますが、良かったら、そちらも読んでみてくださいv




