隠者の塔の地下へ
戻ってきたお父さまは、灰色のフードを被っていた。私とリックも同じものを被らされる。
なんだろう、ぐんと存在感が薄まった気分。
そのまま廊下をあちこち歩き……やがて一つの部屋に行き着いた。
「アル!」
「やあ、アリッサ。元気そうだね」
「アルも元気そうで良かった~。気が付いたら、領だったから……」
背後に黒いフードの不気味な雰囲気の人物を従えて、アルが待っていた。
久しぶりのせいだろうか、なんだかすごくキラキラしている。それとも、後ろにあやしい人がいるからキラキラが倍増するのだろうか?
「殿下、本日はよろしくお願いします」
「うん、まあ、心配が杞憂で終わればいいけど……」
お父さまが頭を下げ、アルが肩をすくめる。
あらら~?
やっぱり10才以下で魔法を使うと罰せられるのかしら。不安が増してきた……。
「ああ、それと……こちらは今後、アリッサの護衛として魔法学院へも共に通わせる予定をしているリックです」
お父さまがリックを前に押し出す。
アルは柔らかく微笑んだ。
「初めまして。アリッサの友人のリックだね?僕はアルフレッドだ」
リックが驚いたように私を振り返る。アルに友人と言っていたことに対してだろう。
事実だし、別にやましいことでもないので、私はこっくりと頷いた。リックは一瞬、渋い顔をしたが、すぐに表情を消してアルに頭を下げる。
「ご尊顔、拝謁でき光栄です、アルフレッド殿下。アリッサお嬢様の護衛を務めるリックと申します」
……おお。素晴らしい。メアリーの弟と思えないきちんとした挨拶っぷり。実はマシューに注意されずとも、ホントはちゃんと出来るのね。
「公式の場は仕方ないけれど、普段はそんなに硬くならなくていいよ。……じゃあ、火龍公爵閣下、また後で」
「はい。……失礼いたします」
お父さまはここでお別れらしい。
うえ~ん、思わせぶりに置いていかないで、説明が欲しいよー。
「まずは、地下に行こう」
お父さまが去り4人になると、アルは奥の扉を指した。
そしてアルが自然に手を取るので、引率される園児の気分だな~と思いつつ、一緒に歩く。
「……ここは、どこですか?」
いや、王城ってことは分かってるんだけど。何をする場所なんだろう?
「王城の北にある隠者の塔だよ」
「塔なんですか。でも、上じゃなく地下に行くんですね」
「うん。王城って、わりと地下もすごいよ。謁見の間の下とか」
「迷宮があったりするんですか?」
「なんで迷宮?」
なんで?ううーん、なんでだろう。
お城の地下ってなんとなく迷宮がありそうなイメージとゆーか。これ、前世のゲームとかの影響かしら?
薄暗い階段をかなり降りた先は、驚くほど天井の高くて広い空間だった。もちろん窓はないので、灰色の石壁に囲まれた円形の部屋は、異様に寒々しい。灯りが乏しいせいもあるだろう。
(ここに監禁とか、ないよね?)
怖い想像をして、思わずアルの手をぎゅっと握る。
アルは空いている方の手で優しく私の手の甲を撫でた。
「ごめん、説明なしでこんな所に連れてこられて、不安になるよね。……今日は、アリッサの魔法の腕を知りたいんだ」
「わたしの魔法の腕?」
なるほど~。
小屋から逃げたときに初級火魔法を使ったの、やっぱり気付いてたんだ。まあ、当然か……。
「えと……罰せられるんですか?」
「え?危険だから10才以下の習得が制限されているだけで、別に罰はないよ?今日は純粋にアリッサの魔力量を知りたいだけなんだ」
そ、そっか。良かった。ほっとしたよ……。




