なんか色々、お父さまにバレました
その夜、お父さまに呼ばれた。
……外出禁止令をちゃんと守っておとなしくしてるんだけど。まだ何か問題あるのかなー。
執務室に入ったら、机の上に石が幾つか転がっていて、難しい顔をしたお父さまがその前に座っていた。
昼間の楽しいコーヒー作りの空気は全然、残っていない。
「これがお前の部屋から出てきたんだが」
???
あれは魔石かな?何か紋様が書いてる。私の部屋……?なんか使ったっけ?
首を捻っていたら、お父さまがふーっと溜息をついた。
「これは、防御石や結界石、防音石だ」
「あ」
だいぶ前に置いたような……気がする。すっかり忘れてた。
「これを使って、何をしていた?」
「えーと……置いたことを忘れていたくらい前の話なので、覚えてませーん」
ということにしておこう。
が、お父さまは甘くなかった。
「忘れたフリをするな。知られるとまずいことが分かっているから、こっそり準備して始めたんだろう。……魔法を勝手に使っているな?」
あ~あ。
石を探し出すくらいだもん。棚に紛れさせている魔法の本もバレてるよね~。
お父さまも意地悪。分かってて言わせようとするなんてさ!
「魔法は、10才からだ。何故かといえば、魔力が安定しない幼いうちから始めると重大な事故が起きるためだ。どの教本にも最初にそう書いてあるだろう。何故、勝手に始めた?」
「……だって、魔法が使えるなら使いたかったんだもん」
口を尖らせて反論したら、お父さまは再び溜息をついた。
「まったく、お前は……。まあ、いい。明日、朝から王城へ行く。なるべく目立たない格好で支度しておきなさい」
王城?
え?
勝手に魔法を学んだら、王さまに怒られるとか?
ぎゃあ、どうしよう~!それこそ本にちゃんと書いておいてよ!
濃いグレーのワンピースを着て、お父さまの執務室へ。
地味な色合いの服のせいか、刑を受ける罪人の気分……。ううう。
執務室の中には、リックもいた。
昨日、マシューと気不味い挨拶をして以降、探しても会えなかったので、いつも通りの落ち着いた顔に少しホッとする。
「では、行くか」
私を見てお父さまは頷き、転移陣のある部屋へと向かった。
王城では、初めて見る部屋に着いた。
王城には一体何ヵ所、転移ポイントがあるんだろう?造りも複雑だし、管理とか大変だろうなあ。
きょろきょろしてたら、お父さまが「少し待っていなさい」と、部屋に控えて待っていた騎士と共に外へ行ってしまった。
私はその隙にリックへ話し掛ける。
「あのね、リック」
「はい、なんでしょうか、お嬢様」
「……それ。わたしと二人のときは前みたいに“お嬢”にして。敬語も止めて欲しい」
昨晩、ベッドの中で考えたのだ。
今後を考えると、リックの選択は正しい。正しいけど……それでは私が悲しくなってしまうのだ。我慢しようとしたけど、出来そうにない。
「それは……出来ません」
「出来る!リックだったら出来る!てゆーか、大変でもやって。お願い。だって、わたしの回りで遠慮なく突っ込んでくれるの、リックとテッドしかいないんだもん。それがなくなったら、わたし、ダメになっちゃう気がする……」
前世の記憶が甦ってから、私は貴族よりも庶民寄りになっている。だって、庶民として生きた年数の方が長いから、当然の結果だ。
だからなのか、“貴族”の枠の中にいることは時々、どうしようもなく息苦しい。リックやテッドとの忖度ない、開けっぴろげな会話は、とてもホッとするのだ。
アルやディ、エリオットは友達で、一緒に過ごしていて楽しい。マシューも好きだ。だけど、リックとテッドはまた違う角度で私にとっては大切な繋がりなのだ。
リックは、目を瞬かせた。
「大変でもやれって……お嬢、わがまますぎるだろ」
!!
「わたしがワガママなのは、前からじゃん」
「だよなー……。俺、今、結構いっぱいいっぱいなのにヒデェよ……」
「んふふ~。ありがと~、リック!だーい好き!」
「アホか!そんな言葉で誤魔化されるか!」
頭をぐりぐりされて、私はちょっと涙ぐんでしまった。嬉しい。いや、頭は痛いけどさ。




