魔法コーヒーはいかがですか
結構なボリュームになってしまいました…。
厨房へ入ろうとしたら、アナベル姉さまが追いかけてきた。
「何か新しいのを試すのよね?私も見てていい?」
姉さまったら、目がきらきらしてる。でも……
「今日のは、スイーツじゃないし……苦いよ?」
「いいの。面白そうだもん」
ま、甘いカフェオレなら姉さまも好きかな?上手く出来るか分からないけどさ。
───興味津々のシェフ、ジョンに手伝ってもらって、さっそくコーヒー豆らしき種を焙煎する。フライパンを使い、弱火で丁寧に煎る感じ。
しばらくしたら、細かい薄皮のようなものが飛び散り始めた。
「お、お嬢様!これ、洗って薄皮を取ってから煎るべきだったんじゃないですか?!」
「薄皮があるなんて知らなかったの!」
ジョンとわあわあ言いながら、薄皮を宙に舞わせつつ煎り続ける。すると今度はパン!と音がした。
「爆ぜた……?そろそろ止めますか、お嬢様?」
「あ、うーん、まだあんまり黒くないから、まだだと思う……?」
まさかポップコーンみたいに膨れてこないよね?焙煎済の豆しか見たことないから、正しい焙煎がよく分からない……。
ドキドキしながらも更に煎り、いい感じに全体が焦げ茶色になったところでザルに上げた。
「お嬢様、たぶんすぐに冷ました方がいいですよ。火から下ろしても、しばらくの間、熱は入りますから」
「そうなの?」
ジョンの提案により、慌ててマシューと一緒にウチワ(みたいな道具。名前は知らない……)で扇ぐ。ますます薄皮が飛び散った。
厨房はすっかり散らかってしまったが、コーヒー豆はなんとか完成だ。明らかに焦げているものや、焙煎しきれなかったものを取り除く。
ここで、はたと次の問題に気付いた。
「あ!ミルがない……」
「みる?なんですか、それは?」
マシューが首を傾げる。
私はジョンを振り返った。
「この豆を細かく挽く道具ってある?」
「豆を挽くんですか?そうですねえ、すり鉢で試してみましょうか。時間はかかりそうですが……」
だよねー。
他に何かいいものないかなあ?
考えていたら、アナベル姉さまがポンと手を打った。
「豆を粉砕するのよね?待ってて、助っ人呼んでくる!」
助っ人?どーゆーこと?
アナベル姉さまは、セオドア兄さまを連れてきた。
「ね、お兄さま!この豆、魔法で細かく砕いてくれない?」
なるほど!いいアイディア。
でも、いいのか、兄さまをそんな使い方……。
セオドア兄さまは期待に満ちたアナベル姉さまと豆を見比べた。
「えっ……それ、ちょっと難易度高くないか?」
「風の魔法でピュンピュン!と砕けるでしょ?」
「豆を砕くなら極少範囲で一定速度の回転をさせた方がいい。広域に思いっきり一閃させるなら得意だけど、調整しながら小さくまとめるのは……苦手なんだよなー」
「え~~~」
「……オリバー兄上を呼んでくる」
───ということで。
厨房はすごいことになり始めた。
セオドア兄さまがオリバー兄さまを呼んだら、何やら面白そうなことが行われていると、お父さまやお祖父さままで見物に来てしまったのだ。
「なんだ、セオドア。こんな豆の粉砕くらい、ささっとこなさんか」
「無理です、お祖父さま!めっちゃ飛び散りますよ」
「わしが補助をしよう。練習だ!」
「えーーー?!」
うーん、カオス。
オリバー兄さまが豆を砕いている横で、お祖父さまに助けてもらいつつ同じく豆を砕くセオドア兄さま。そして、お父さまは……
「あ、そろそろいい感じです、閣下」
なんとジョン指導のもと、空中でコーヒー豆を煎っていた。
さっき煎った分だけでは量が少ないので追加焙煎しようとしたら、お祖父さまが「マックス。お前はそれを魔法でやれ」と言い出したからだ。
これで美味しく出来たら……カールトン家マニュファクチュアコーヒーだね。超高級品だよ。
最後の難関は、ドリップ。
小さいザルの上に食材を絞ったりする布巾を敷いてみた。これで抽出が出来ると思うんだけど。
みんなが見守るなか、ゆっくりとお湯を注ぐ。
ふふん、コーヒーは、前世で親がこだわっていたから淹れ方は分かるのだ。
ふわっと豆が盛り上がったら、しばらく蒸らす。で、蒸らしたら細い水流で静かにお湯を注ぐ。真ん中が泡立った。いい感じだ。
そのまま、コーヒーが抽出されるのを待ち、半分ほど減ったら再度、お湯を注ぐ。
3回ほど繰り返して、終わり。
───抽出された真っ黒な液体を、みんなが固唾を飲んで見つめる。
代表して、マシューが口を開いた。
「これ……飲むんですか?」
「うん。このままでも飲めるけど、最初はキツイんじゃないかな。でも、眠いときに飲むと目が覚めるんだよ。あと、頭痛も軽減するかな。……これにねー、砂糖とミルクを入れると美味しいの」
「……そのままで飲んでみたいです」
おお!マシュー、チャレンジャーだなあ。
でも結局、私以外、全員が一口ずつブラックコーヒーを飲んだ。
お父さま、セオドア兄さま、マシューは「まあ、悪くないかな?」という顔だ。う~ん、ブラックで飲めるなんてカッコいい。
なお、砂糖とミルクを入れたものは、アナベル姉さまとお祖父さまがとても気に入っていた。
「いいわね。私、紅茶より好きかも!」
砂糖なし、ミルクのみが気に入ったのはオリバー兄さま、セオドア兄さまとマシューだ。
お父さまは、迷いに迷った末、ブラック派になったようである。
「この飲み物は奥が深くていいな。マシュー、継続して豆の輸入をお願いしていいか?店で販売するのはまだ難しいが、我が家での飲み物に加えるのは良さそうだ」
「はい、閣下」
ひゃっほ~、これからはカフェオレが飲める!こうなると、なんとしても生クリームも手に入れたいなあ。○ターバックス的なやつを作りたい……。
その前に、コーヒーミルをつくらないとね。毎回、兄さまに魔法で粉砕してもらうわけにはいかないもの。石臼なら、なんとかなるかしらん……?
ちなみに私はブラック派。でも、甘いカフェオレも好きですv
カールトン一家による魔法コーヒー、一杯いくらなんだろー。あと、アリッサの適当焙煎具合から、美味しく出来たか謎……。
もっともこのあと、ジョンが研究を重ねます。




