脱出、そして大爆発
小屋の外から誰かに呼ばれたらしく、少年が出て行った。出る前にアリッサに再び猿轡を噛ませる。
その頃には僕自身の拘束が解けていたので、音をさせないようそっと身を起こした。
アリッサがハッと顔色を変えて僕の方へ這ってくる。
静かに……とジェスチャーすれば、アリッサはぴたっと動きを止めた。その隙に、急いで彼女の拘束も解く。
何か問いたげに僕を見上げるので、守り刀を見せた。
「これは本当に守り刀だね。さ、時間がない。逃げるよ」
小さく小さく囁いて、アリッサの手を引き奥へ行く。さすがアリッサだと感心するが、彼女は一言も発さず、後に続いた。
この小屋は奥に物置き部屋がある。そこからも、外へ出られるのだ。見張りはいるだろうが、表と違って裏ならばすぐに森へ駆け込める。
裏口の扉に耳をつけて外の音を拾った。微かな足音。
更に緩やかに大地へ意識を広げ、裏の見張りは1人だと判断した。王族は全属性の魔法を使えるが、特に土属性の比重が大きい。魔法を使わずとも大地の簡単な情報くらいは感じることが出来る。
裏の見張りが1人なら、閃光の魔法で目を眩ませ、すぐに土魔法で足留めをすれば逃げるのも簡単だろう。こういう事態を想定して、多少はそういう魔法訓練をしている。
「僕が見張りを倒すから、アリッサはすぐに走って」
「仲間が何人いるか分からないのに、そんな作戦、無謀だよ!」
「大丈夫、3~4人なら足留め出来る」
攻撃として石の礫だって飛ばすことも出来る。だが、敵の足元の土を軟化させて半分くらい体を沈めてしまうのが一番効果的なはずだ。襲われた瞬間に見た近衛騎士が、もし敵の変装ではなかった場合……僕程度の魔法攻撃は通じない。足留めに特化させて、アリッサを無事に離宮まで逃がさないと。
しかし、アリッサが悲痛な顔をして首を振った。僕が盾になるつもりなのを察したのだろう。ああ、でもここは大人しく守られて欲しい。僕が全力を出したところで、きちんと君を安全圏まで逃がせるか分からないのに。
向こうの部屋で音がした。
駄目だ、時間がない。
躊躇する余裕はないと扉を勢いよく開く。裏の見張りは表の方を見ていて、こちらを向いていない。
「アリッサ!」
彼女の手を引こうとしたら、何故かアリッサは反対に奥の棚へと向かった。置かれていた袋を取って天井の方へ幾つも投げる。バッと白い粉が舞った。
「何を───」
「アル!一緒に!」
袋を投げ捨てたらすぐに戻ってきて、今度は腕を引っ張られた。
裏口の見張りがこちらに気付き、顔色を変えて駆け寄ろうとする。僕は慌てて魔法で男の手前の大地を盛り上げる。
アリッサは後ろを振り返り、右手を小さく振った。
?!
思わず彼女に問い掛けようとしたら、思いっきり腕を引かれた。
大木の影に倒れるように回り込んで―──
ドッカーン!
耳をつんざく轟音と共に、小屋が大爆発した。




