胸に響く言葉
目尻に涙を湛えたまま、アリッサが少年を睨む。金色の瞳は、燃え上がる炎のような激しさを孕んでいた。
こんなときなのに、息を飲むほど美しい。少年も同じように感じたのだろう、口角が上がり、乱暴にアリッサの猿轡をむしり取る。
「カワイイなぁ、お姫サマ。な?オレに命乞いしてみろよ?アンタだけ助けてやってもいいぜ?」
アリッサ、何も言うな。これ以上、こいつの関心を買っちゃいけない!
だけどアリッサは、泣いて脅えるでもなく真剣に眉を寄せ、少年を見据える。言葉を探しているのだ。
「どうした?怖くて声も出ないか?」
「こ、ここから二人とも逃がしてくれたら、お礼するわ」
「はっ!じゃあ、オレを公爵サマにしてくれよぉ」
微かに震えているようだけど、それでもアリッサは少年から視線を逸らさない。息の詰まるようなやり取りが続き、焦れたように少年がアリッサの髪を引っ張った。
───殺してやる。
こいつは絶対に許さない。
全身がカッと熱くなって……かえって僕の頭は冷えた。
落ち着こう。このまま転がって睨んでいても何もならない。
まずは拘束を解かなければ。
幸い、アリッサから貰った守り刀がある。目立たないように工夫してブーツに仕込んだのだ。
少年に気付かれぬよう、少しずつ体を縮める。自由に動かない手で守り刀を取り出すのは難しい。
……いつの間にか少年はアリッサの言葉に耳を傾けるようになっていた。反論はしているが、最初のときほど勢いがない。つたないアリッサの言葉に、きっと真実があるからだ。
僕らと少年の間には、どうしようもなく深い溝があるのだろう。お互いの立場を本当に理解することは決して出来ない。それでも、“幸せ”に生きるための生き方はたぶん、どちらの立場でも一緒なのだ。他人を恨み、足蹴にし、貶めても……それで自分が幸せになる訳じゃない。もしそれに幸せを感じるなら、他者を傷つけて興奮するただの変質者じゃないか。“幸せ”は……案外、不断の努力が必要なものだ。
アリッサの言うことは、どれも僕の胸にも刺さる。
そうだね、アリッサ。僕ら貴族は端から見るほど幸せじゃない。多くの自由を奪われ、ひたすら研鑽して良き支配者であることを求められる。一人分ではなく、国の民の分の責任を負って生きなければならない。
君も……必死に足掻いていたのか。“持ってないことを理由にするのはズルい”、これは特に響くなあ。僕がどうしようもなく子供で、自由がなくても……確かに、それは逃げる理由にはならない……。




