森の中で……
今日は銀華鳥を見に行く。
とても美しい声で鳴く鳥だ。アリッサなら、すぐ気に入ると思う。
外へ出たとき、少しドキドキしながらアリッサの手を取った。アリッサははにかみながらも嫌がらずに手を繋いでくれた。
そうして雑談しながら森の小道をしばらく進み……ふと、首筋がちりちりする感じを受けた。
なんだか、すごく嫌な予感がする。
妙な焦燥感にかられ、後ろを振り返り───誰もいないと思っていた真後ろに近衛騎士の姿を認め、驚いた瞬間、腹に重い一撃が入った。続いて首の後ろを叩かれ、僕は意識を失う──……
目が覚めたら、両手両足を縛られ、猿轡をされた状態だった。
場所は、恐らく森番の小屋の中だ。
隣に、同じ状態のアリッサがいる。意識はないようだ。
すぐに僕らを殺すつもりではない、ということか。アリッサを連れて……逃げ出せるか?
その前に敵の人数の確認をしなければ。
「状況の確認はできたか?」
ねちっこい声音で話しかけてきたのは、僕らの前で胡座をかいている少年だった。ナイフをくるくる回しつつ、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
見張り役だろうか?10歳前後の俊敏そうな細身の黒髪の少年。右瞳が血色、左瞳が黒色をしている。魔障に触れた証し、穢れた血色の瞳……。
僕が眉を寄せたのを見て、ふっと少年は鼻で笑った。
「……そんな睨むなよぉ、王子サマ」
まだ子供だが、僕より遥かに強いことは分かる。どうやって、油断させる?
そのとき、くぐもった声がした。アリッサが目を覚ましたのだ。
少年のニヤニヤ笑いが深くなる。
「あ、お姫サマも目ぇ覚めたか。……おはよう、お姫サマ。気分はどうだ?」
アリッサ……どうか、脅えて動かずにいて欲しい。こいつは、話が通じるような奴じゃない。変に刺激をしない方がいい。
僕の祈るような想いは届かず、少年は愉悦で目を輝かせてアリッサを覗き込んだ。
「キレイな赤髪だと思ってたけど、へえ、お前、目もキレイな色をしているな!黄金か。えぐりだしたくなるねぇ」
言いながら、ナイフをアリッサのこめかみに当てる。冷静でいなければ、という心の声は吹っ飛んだ。
咄嗟にアリッサを突き飛ばす。そして、少年の腹に頭突きをしてやろうとしたけれど、すぐに僕の方が腹を蹴られた。
「 ! 」
さっき腹を殴られていたので、痛みが半端ない。それでも、ほんの少しだけズラせたので、内臓は無事だ。
だけど僕は無様に転がり、より一層不利な状況になってしまった。
「はっ!そんなんでお姫サマを庇ったつもりか!」
もう一度、腹を蹴られる。
「ぐっ……」
思わず声が漏れた。
アリッサが目を見張り、慌てて這いずってこちらへ来ようとする。
少年が抑えきれぬ興奮に血色の瞳をギラギラとさせてアリッサの髪を乱暴に掴んだ。
「おとなしくしてたら、楽に死ねる。動くな」
止めろ、アリッサに触るな!
ああ……僕はなんて非力なんだ……!




