願いたいことは本当はいっぱいあるのだけど
部屋の明かりを落としてすぐに、星が流れた。
「あー!願いごと!何にしよう~、えーと、えーと……乗馬!馬に乗れるようになりますように!」
「それは無理じゃないかなあ?」
思わず口を出してしまったら、両手を握り締めてアリッサが僕を振り返る。
「ムリじゃないですぅ!私は、アルより上手に馬に乗れるようになるんだから」
「そう?帰りも体がガチガチだったから、道のりは遠いと思うよ」
「今日、初めてなんだからそんなもんです。……じゃあ、アルは?アルは何をお願いしますか?」
アリッサがこれから先も一人では馬に乗らず、僕と一緒に……とお願いしたいけれど、それは怒られそうだから諦めよう。
他にも、僕には口に出せない願いがいっぱいだ。
う~ん、何かちょうどいい願いってないかな?そうだ!
「背が高くなりますように……?」
「背?」
「母上は割りと背が高いんだけど、父上は少し低いんだ。ヒールを履いた母上と並んだら、ほとんど変わらない。伯父も低い人が多いから、僕も同じだったらイヤだなと思って」
「なるほど。……私もなかなか伸びないから、それもお願いしてみようかな……」
「そんなお願いして、伸びすぎたらどうする?男の僕は高くてもいいけど、アリッサだと、ダンスの相手がいなくなるよ」
というか、僕より高くならないで欲しい。男の小さなプライドだ。
流れ星に願って、本当に叶うか分からないのにムキになるのも情けない話だけど。
「そっかぁ……そうですよねー、チビもイヤだけど巨人もイヤだなぁ。じゃあ、今夜は乗馬一択で!」
その後は延々と2人で願いを連呼し、失敗をしては笑うという楽しい時間が続いた。
顔を真っ赤にしながら「じょばじょばじょば」と叫ぶアリッサは本当におかしくて、僕はこんなに笑ったことはないというくらい、爆笑しまくった。心から笑うと、あんなに腹筋を使うなんて知らなかった。
僕は、この夜を一生忘れられないだろう。
翌朝。
母上達にも僕らの笑い声は聞こえていたようで、一緒に参加すれば良かったなんて言われた。
そこから何故かシワの話へとなり、途端にアリッサが真剣な表情で考え込む。
どうやら美容に関する商売で何か思い付いたようだ。
アリッサは、やはり商売人だなぁ。




