“可愛いアリッサ”がどんどん増えてゆく
やばい。
僕は嗜虐趣味なんか無い。無い、けど……どうしよう、悲鳴を上げて僕にしがみつくアリッサがすごく可愛い。これは……いつもと様相の違う彼女にドキドキしてるだけ……。うん、そう。だからこれ以上は、彼女を怖がらせないようにしないと。
───でも、泣き顔も可愛いんだよな、アリッサって。
あの泣き顔をもう一度見た…………はっ、駄目だ。この感情は、あまり深掘りしてはならない……!
スウェインからアリッサを降ろしたら、つい目が吸い寄せられてしまう、あの潤んだ瞳で睨まれた。……可愛い。
「おかしいなあ、あんまり楽しくなかった?」
「……お尻が痛いです」
「痛い?……アリッサ、力が入りすぎてない?」
てっきり疾走するスウェインが怖くて涙目になっているのかと思っていたのだけど、お尻が痛くて怒っているらしい。なーんだ。
そういえば、僕も最初の頃は痛かったような気がする。なので、スウェインの動きに合わせるようアドバイスしたら、僕のお尻が岩みたいに固いんだろうと返された。
ん~、岩みたいに固かったら、余計にがんがん跳ねて痛そうだけどなあ。でも、口を尖らせて文句を言ってるアリッサも可愛い。思わず笑ってしまった。
「触ってみる?」
笑いながら聞いてみたけど、
「お尻にさわる趣味はありません!」
とすぐにそっぽを向かれてしまった。ただ、一瞬、手がワキワキしたから……触るつもりだったかも?
とっておきの花畑を見せたら、アリッサの機嫌はたちまち直った。モラ湖畔で一番綺麗な景色なので、飛び上がるほど喜んでくれて僕も嬉しい。
こぼれ落ちそうなほど目を開いて花畑を見る様子は、まるで景色を全部取り込もうとするかのようだ。あんまり熱心に見ているものだから、そっと彼女を突ついた。
「目玉が落ちるよ」
アリッサは、はぁ……と息を吐いて僕を振り返る。
「こんなに色とりどりでキレイなお花畑って現実にあるんですね。死後の世界に来たかと思っちゃった」
「……キレイな花畑で死後の世界を連想するってどうかと思う」
「そうですか?」
死んだら、冥府の神ルドラによって魂は洗われ、世界の根源に還る。ルドラの御前が花畑───なんて、僕は想像したこともなかったなあ。
……その後、アリッサとは花冠を作って過ごした。母上に付き合わされて覚えた花冠の作り方だけど、覚えていて良かったと心の底から思う。
そして、頬を染めて喜ぶアリッサは、本当に可愛かった……。




