保養地での楽しい時間が始まった
今回はちょっと長め……。
ほのぼの回v
おかげで父上が「自分も行こうかな……」と言い出した。気の弱い父上はシンシア第二夫人に気兼ねして、普段、なるべく母上とは長く一緒に過ごさないようにしているのに。よほど楽しそうな企画に見えたのだろう。
もっとも母上は冷たかった。
「イヤです。コーデリア様とアリッサの3人で楽しい夏にするんですから!」
……あれ?僕は?
言い出したのは僕なのに、僕も母上の中から弾かれているのなら、結構ショックだ。
城に来たコーデリア様もテンションが高かった。
前に父上が「イザベラがこの国に馴染めたのは、完全にコーデリア様のおかげなんだけど……二人の仲は良すぎてね。ときどき、妬いたものだ」と言っていたことを思い出した。きっと学生時代からこんな感じだったに違いない。アリッサもさすがに一歩引いている。
───モラ湖畔の離宮に着いたら、すぐにランチとなった。
テラスで回りの景色を見渡すアリッサは興奮しているようだ。キョロキョロと落ち着きない。母上とコーデリア様に押されていたが、アリッサもいつもよりテンションが高いのではないだろうか。
「夜は、流れ星がたくさん見れるよ」
と教えたら、途端にいつもの倍くらい目を輝かせて僕を振り返った。
「本当ですか?!じゃあ、いっぱいお願いしてみないと」
何故、流れ星に願いをするのかといえば、流れ星が消えるまでに3回願い事を唱えられたら叶うという異国の風習があるからだとか。ふうん、それは素敵な風習だ。
僕の夢はかなり難しいから、星に願って叶うならいくらでも願いたい。ただ、声に出して周りに知られても困るので……心の中で唱えても問題ないだろうか?
その後は乗馬へ。
白馬のスウェインが僕を見て嬉しそうに嘶いた。
スウェインは、春まで王城にいた馬だ。もう年なので、この保養地でのんびり老後を過ごしている。大人しい性格なので、僕の乗馬訓練によく付き合ってもらった。初心者のアリッサを後ろに乗せても、落ち着いて走ってくれることだろう。
馬番のホレスがニコニコと何度も僕とアリッサを交互に見ている。ホレスは僕が必死に乗馬の腕を上げたのが、彼女のためだと分かっているのだ。……少し恥ずかしい。
スウェインに乗ったら、嬉々として乗るかと思っていたアリッサは僕の後ろに怖々としがみつた。
「た、たかい……」
いや、あの木の上のほうがもっと高かったけど?
「ちゃんと僕に掴まっていたら、大丈夫」
「ア、アルの乗馬の腕は、大丈夫なんですか?」
「失礼だなあ。アリッサを危険な目に合わせる腕なら、最初っから誘わないよ」
何度も落馬しながらどれくらい頑張ったか、教えたいくらいだ。だけど、僕の腰に手を回したアリッサの手がガチガチなので、僕はつい、優しく撫でてしまった。まさかアリッサがこんなに怖がるなんて。予想外な展開だけど……可愛い。
「手!手を、手綱から離さないでください!」
「大丈夫だってば」
実は、魔獣討伐隊に入れたら、いつか飛竜に乗ってみたいと計画している。これの夢は絶対、実現しようと決意を新たにした。アリッサは馬以上に怖がるかな?でも、アリッサを乗せて二人で空を飛ぶ。なんて壮快な夢だろう!というか、この夢は魔獣討伐隊に入る前に叶えたい。
───ちなみに、アリッサに高い木が平気で、何故、馬が駄目なのか聞いたら、振り落とされそうだからという答えが返ってきた。
うん、確かに……僕も散々落馬したもんなあ。痛かった。もっとも、アリッサは落ちていない木からも僕は落ちたけどさ。




