僕は悪役でも何でも平気…かも
温室でアリッサは何か書き物をしていた。絵本の原案を書いているのだと言う。
やっていることの範囲が広すぎるので、実はアリッサという名の人物が複数人いるのではないかと疑いたくなる。
持ってきたサンドイッチやケーキを広げ、のんびり食べながら二人で雑談をした。
とりあえず気になるので、さっき聞いたばかりの侍女の弟のことも尋ねておく。すると、あっさり「下町の友達です」と嬉しそうに言われた。
……なんだか納得がいかない。
相手側はアリッサの素性を知っているのに、そんな簡単に友達になるものか?
僕がそこへ行くまで、大変だったのに……。
エリオットとも、やはり友達になったそうである。まあ、この辺りに関しては予想をしていたので驚かない。少し腹立たしいのは認めるけれど。
でもまあ、エリオットはあれで意外とおっとりした内面のようだから、たまに会うくらいなら大丈夫だろう。それに、エリオットと会うときはクローディアが横にいるだろうし。
意外だったのは、アリッサが自分のことは悪役だと言い出したことだ。将来、ひどい虐めをして処罰されそうでしょ?なんて苦い顔で言う。その表情は、本当にそう思っているように見えた。
前に、自分は平凡だと言ったときと同じ顔をしている。
僕は思わず彼女の手を取った。
「アリッサが将来、悪役になるなら、僕も一緒に悪役になるよ。二人で世界征服って楽しそうじゃない?」
アリッサは絶対に悪役じゃない。
人を差別しないし、まだ幼いのに驚くほど勤勉で働き者だ。
そんな彼女が将来、悪役になるというなら……それは回りがよほど悪どいことをしてそうせざるを得ない状況にしたか、彼女が必要と判断して悪役を演じるかだ。
どちらにしても、僕の答えはもう決まっている。彼女を害す者は排除するし、必要なら共に悪役を演じるだけだ。
握った僕の手を見ながら、アリッサの目元が緩んだ。はにかんだ笑顔が浮かぶ。すぐに溶けてしまいそうなその笑顔は、すごく可愛い。
「……世界征服なんて壮大な夢ですね。うーん、でもよく考えてみたら、あとあと、統治って面倒かも!」
「そうだね。世界を手に入れるというなら、世界一の大富豪になった方が得かな?」
「いいですね!あ、でも、三番目くらいがいいかも知れないです。変にやっかみも受けなさそうで」
ふふ、アリッサはやっぱり考え方が面白い。
最後に一番の目的であった保養地への誘いも出来た。
ふー、今日はよく頑張った!




