相互扶助といったところ…?
ということで、火龍公爵は僕とアリッサの婚約話に関して、公では否定せず肯定せず曖昧なフリをして過ごしてくれるそうである。
「まあでも、出来ればなるべく早めにアリッサの気持ちを動かしてくださると嬉しいですな。ある日いきなり、外国へ留学するとか一人で勝手に旅へ出るとか、あれは何をしでかすか分かりませんので……」
公爵の心配は正しい。アリッサは、すでにそういうことをやる気満々だ。
「ああ、それと。一度、公式に王城へ招いてもらった方が良いかも知れません。水龍公爵家との話があまり大きくなってはこちらも困る」
ふうん、火龍公爵もちゃっかりしている。アリッサの防波堤に僕を使うつもりらしい。
でも、僕もアリッサの有難みを今日、思い知ったところだ。アリッサがいるから遠慮して声を掛けてこなかったご令嬢があんなにもいたとは知らなかった。
お互い様ということだろう。
「父上、こんなところにおられたんですね」
控え室の扉が開き、火龍公爵家の次男、セオドア殿が現れた。
「アリッサは?」
「人目につかぬよう温室へ。腹が減ってるらしいので、今から食べ物を持って行きます」
公爵は頷いて僕を見た。
「では、殿下もそちらへ。客室で過ごすより気が紛れるでしょう」
「ありがとうございます」
さっそく、頑張る機会をくれるみたいだ。
だが、セオドア殿が首を傾げた。
「……殿下も温室に?」
父親と同じ金色の瞳が訝しげに細められる。
火龍公爵は含み笑いをした。
「殿下からとても胸の打たれる提案を頂いてね」
「意外です」
「前から言っているだろう?手綱を任せられる者なら任せると」
「───まあ、父上がそう仰るなら。あ、そういえば……もしや父上は調味料の件、ご存知だったんですか?」
???
調味料?
この流れで、いきなり調味料?
「商会に関わるからかな、すぐに報告を貰ったよ」
「な~んだ。知ってたのか。アナベルやお祖父さまはきっとガッカリですよ。さっさと真相を話してあげてください。……では、殿下、アリッサのところへ行きましょう」
ううーん、何の話だろう……アリッサが関わっているようだし、気になる……。




