火龍公爵との話(1)
会場の騒ぎが収まらないためだろう、火龍公爵が僕を奥の控え室に連れ出してくれた。母上は、まだコーデリア様と談笑中だ。きっと周囲に僕とアリッサの仲をアピールするつもりだからだ。
「騒ぎとなり申し訳ない、殿下。しばらくこちらでお過ごし頂けますか。少し落ち着いたら、お帰りの用意をいたします」
「ご配慮、感謝いたします。だけど、別に気にはしておりませんよ。……それより、アリッサ嬢は?」
火龍公爵は額に皺を作りながら会場に続く扉を見やった。
「息子達に探しに行かせました。……そういえば、妻とアリッサを王家の保養地にお招き頂いたようで」
ふいに金色の瞳が鋭い光を放った。
「殿下は我が娘と婚約する気はないとお伺いした記憶があるのですが。もしや、エリオット殿に対抗したい気持ちになられましたか?」
あー……言われると思った。火龍公爵に婚約する気はないと話をしたのは、ついこの間だ。
でも、そのときは本当にそう考えていたんだから仕方がない。僕だってこんな展開になるとは予想もしてなかったよ。散々、僕のプライドを折った女の子を好きになるなんてさ。
ま、今日は前言撤回するために気合いを入れてきたんだ。水龍公爵の騒ぎで話が出来ないかもと心配したけど、いい機会が巡ってきた。頑張ろう。
「……実は先日、アリッサ嬢から紅い石のついた守り刀を貰いました」
「え?」
「そのとき、手作りのケーキも頂いたんです。僕は今まで、こんな心のこもったプレゼントを貰ったことは一度もありません。……気持ちが揺らいでも仕方ないと思いませんか?」
僕がにこやかに言ったら、その瞬間、火龍公爵は片手で顔を覆った。
(何をやっているんだ、あの娘は!)という彼の内なる声が聞こえる気がする。
「あぁ~……殿下、申し訳ないがその……」
「大丈夫です、閣下。翌日にアリッサ嬢から“友人だ”と笑顔で言われました。彼女に深い意図はないと分かっています」
手の隙間から、公爵が奇妙な目付きでこちらを見た。
「それなのに何故?」
「僕もまだ若輩者なので。少し夢を見てしまいました。アリッサ嬢と共に歩く未来を」
「……じゃじゃ馬ですぞ」
「あの水龍公爵やエリオットまでも陥落させる世界でただ一人の女の子です」
ふー……と火龍公爵は長い息を吐いた。
すみません……!
気になるあたりで切っていますが、続きは明日で……ごめんなさい……。




